【乱読NO.3220】「数学でつまずくのはなぜか」小島寛之(著)(講談社現代新書) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 内容 ]
数学的センスは誰のなかにもある!
学校教育の落とし穴から抜けるための、まったくユニークな伝授法。

[ 目次 ]
第1章 代数でのつまずき-規範としての数学(マイナス掛けるマイナスはなぜプラスなのか 負の数は商業取引の便法として普及した ほか)
第2章 幾何でのつまずき-論証とRPG(何がこどもを幾何嫌いにするのか ギリシャ幾何学vs.バビロニア幾何学 ほか)
第3章 解析学でのつまずき-関数と時間性(文章題との運命の出会い 関数こそ、この複雑な世界への入り口だ ほか)
第4章 自然数でのつまずき-人はなぜ数がわかるのか(幼児は数を何だと思っているか 「次」を使って数をとらえる派 ほか)
第5章 数と無限の深淵-デデキントとフォン・ノイマンの自然数(「自然数」は数学者にも難しい ラッセルの批判 ほか)

[ 問題提起 ]
これがスゴ本でなくて何をスゴ本と呼べばいいのか。

「『(数学|算数)がわからない』がわからない」人は、必ず手に入れよう。

教師、塾の講師、家庭教師はまず必読。

家で子どもの宿題を教える機会のある父母兄姉も必読。

教わる方としても、教える方の手口を知っておくために入手しておくべき。

[ 結論 ]
本書、「数学でつまづくのはなぜか」がどんな本から、著者に直接語ってもらおう。

P. 3
この本は、こどもたちと数学のあいだがらのことを書いた本だ。でも、「どうやってこどもたちに上手に数学を教えられるか」ということを書いた本ではない。どちらかというと、「どうやったらこどもたちから数学を学ぶことができるか」、それを書いた本である。さらに言うなら、「数学がいかに有能で役に立つものか」を押し付ける本でもない。そうではなく、「数学を役立てられなくったっていいじゃん」ということを説いた本だ。

数学不要論?

とんでもない!

著者はこう続ける。

誰かと友だちになりたいなら、まず、そいつを何かに利用しようなんて浅ましい考えは捨てることだ。

数学と友だちになりたい場合も同じである。

とにあく、そいつの話をじっくりと聞き、いいところも悪いところも知ろうとすることだ。

そして思いっきりけんかをすることだ。

そうした末に、そいつの良さといとおしさがわかるのだから。

キャプテン翼メソッドである。

同じく名著であり本blogのロングセラーでもある「数学的思考法」は「数学は敵じゃない」ことを説いているが、本書ではさらに「数学を友だちにしよう!」というところまで踏み込んでいる。

目次を見てもわかるように、本書は数学啓蒙書としては「易しい」わけではない。

第3章、それも前半あたりまでは義務教育の範囲で扱うが、同章の後半は高校でやっと教わるものだし、第4章と第5章は大学に行かなければ教えてくれない。

にも関わらずそれをきちんとやったところに、著者の「優しさ」がある。

「思いっきりけんか」まで踏み込むためには、ここまでやる必要があったのだ。

「易しくないが優しい」本書には、ちょっと変わった読み方をお勧めしたい。

教師や上級生や先輩や親といった、「教える立場」にある人と一緒に読むのだ。

「数学ガール」にたとえると、テトラちゃんが「僕」と、「僕」がミルカさんと読むという読み方がいい。

ペアプロならぬペアリーディングだ。

双方とも大いに得るところがあるはずである。

その著者が強烈に意識していたのが、 遠山啓。

本書は「数学入門」へのオマージュでもある。

P. 229
本書は遠山の著作には及ばないと思うが、同じフレーバーの本を書けたのではないかぐらいには自負している。

著者はこう謙遜するけれども、どうしてどうして、第5章に関して言えば「数学入門」を超えていると思う。

本書は、著者自身が認める著者の最高傑作である。それだけでも、

小島ファンには充分な品質保証なのではないだろうか。

P. 197
こどもに数学を教える方法を考えることは、数学の研究そのものに匹敵するぐらい難しく、また深い研究が必要であり、誇り高い仕事だ。こどもたちが必要とするのは、ある芸に秀でているが哲学も思想も人間認識もないような「著名人」などではなく、遠山のような総合的な知識と哲学と想像力を兼ね備えた専門家なのである。

「数学入門」が先生だった私としても同感である。

そして著者におかれてはぜひ「いいだしっぺの法則」を貫いてほしい。

著者にはその資格があるし、そのために数理経済学者としてのわらじを捨てる必要もない。

もっとも、今度は経済学的なつっこみどころが少なくとも一つある。

「友だちメソッド」は極めて有効である一方、極めて手もかかるのである。

現在の日本の30人制の教室でやるにはかなり無理がある。

結局塾や家庭教師でしか使えないということであれば、格差拡大の遠因にすらなってしまう恐れがあるし、現にそうなりつつある。

遠山は素晴らしい書を残してくれたが、「教室の経済学」まではさすがに踏み込めなかった。

[ コメント ]
数理経済学者でもあり、そして優れた数学教育者でもあることを本書で証明した著者であれば、そこまで踏み込めるのではないか。

[ 読了した日 ]
2009年12月26日