【乱読NO.2910】「確率的発想法 数学を日常に活かす」小島寛之(著)(NHKブックス) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 内容 ]
確率の発想さえ身につければ、不確実な状況をうまくコントロールできる。
ギャンブルや保険、資産運用など、日常に即しながら確率の基本的な計算方法を数字の苦手な人にもわかりやすく解説し、経済学や金融工学などが確率をいかに利用しているかを紹介。
さらに、環境問題などのリスクに確率のテクニックを応用して対処する可能性をさぐる。
社会生活に役立つ、異色の数学入門。

[ 目次 ]
1 日常の確率(確率は何の役に立つのか 推測のテクニック-フィッシャーからベイズまで リスクの商い 環境のリスクと生命の期待値)
2 確率を社会に活かす(フランク・ナイトの暗闇-足して1にならない確率論 ぼくがそれを知っていると、君は知らない-コモン・ノレッジと集団的不可知性 無知のヴェール-ロールズの思想とナイトの不確実性 経験から学び、経験にだまされる-帰納的意思決定)
そうであったかもしれない世界-過去に向けて放つ確率論

[ 問題提起 ]
以前、ベイズ理論がインターネット技術でクローズアップされていた。

・グーグル、インテル、MSが注目するベイズ理論
http://japan.cnet.com/special/story/0,2000050158,20052855,00.htm

18世紀にトーマスベイズが発案した統計理論。

この本の前半で大きく取り上げられていた。

サイコロを振って1がでる確率は6分の1。

2回目も連続して1がでる確率は36分の1で、3回連続は216分の1である。

実際に何度か振ってみると、その確率と違ったりする。

だが、100回や1000回繰り返せば、正確にその数字に近づいていく(大数の法則)。

であるから、100回も繰り返せば、次に1がでる確率はかなり正確に予想できるようになる。

では、無差別に選んだ大量のホームページを連続して見て回る時、次のページが面白いページである確率はいくらだろうか?

この確率を計算するのがベイズ推定である。

[ 結論 ]
ベイズ推定では次に開くページが面白い確率、あるいは面白くない確率を、最初にエイヤっと適当に決めてしまう。

例えば2分の1で面白いページが見られるとしたら、初期値=先入観を0.5として与える。

そして、実際にホームページを1ページ見て確認する。

面白かったならば、その次のページも面白いとする先入観が強くなり、そうでなければ低くなる。

これを繰り返すことで、0.5が上下し、ホームページの面白い確率が次第に、正確に予想できるようになる。

私たちは、サイコロの構造について知識があり、1が出る確率は6分の1だと事前に知っている。

もし、知らなくてもサイコロを振るのは簡単だから実際に100回も1000回も振ってみれば6分の1だと分かる。

だが、結婚相手の幸福な選択だとか、儲かる株式投資だとか、企業の重要な戦略意思決定は、事前に構造を知らないし、100回も1000回もやってみるわけにはいかない。

結婚ともなれば、一般的な統計の値がどうであれ、自分の一回限りの人生である。

自分の少ない経験からであっても、自身の気持ちで決めたい。

そういうときに、主観的な確率を求める計算方法として、ベイズ推定は実用性がある。

ベイズについての詳しい解説をしているサイトがある。

・入門者向け解説 - ベイジアンってどういう考え方なんだろう
http://hawaii.aist-nara.ac.jp/~shige-o/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?%c6%fe%cc%e7%bc%d4%b8%fe%a4%b1%b2%f2%c0%e2

テクノロジーの世界では、スパムフィルタリングや情報の分類サービスに応用されている。

メールに含まれる単語のパターンから、スパムらしさを計算する。

実際に分類しながら、学習によって、フィルタリングの精度が向上していく。

・POPFILE
http://popfile.sourceforge.net/manual/jp/manual.html

スパムメールをベイズ推定で発見するソフトウェア。

・コメントを用いた書籍の分類
http://www.tokuyama.ac.jp/IE/Pages/sotu2003/paper/fujitomi.pdf

ベイズを使って書籍を分類する

・コメントを用いた映画の分類
http://www.r.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/~nakagawa/academic-res/abebe0207.pdf

映画を分類する
・The International Society for Bayesian Analysis
http://www.bayesian.org/国際ベイズ推定協会

この本は、経済学者が書いた確率論の本であるが、著者はもともと企業人であり、消費者や経営者の人間心理と関わる確率論を重視している。

例えば、普通のサラリーマンならば、次の二つの選択肢のうち、

A 五分五分の確率で100万円かゼロ万円の給与がもらえる会社

B 固定で40万円の給与がもらえる会社

Bを選ぶ、という。

数学上は期待値50万円のAの方が得であるにも関わらず、安定した生活という、外部の要素を求めているからだと分析している。

あるいは、ひとつボールを取り出して色を当てる賞金ゲームにおいて、

C 赤と黒のボールが50:50で100個入っている箱

D 赤と黒の比率はわからないがとにかく100個入っている箱

のふたつでは、多くの人がCを選ぶという。

本当はどちらを選んでも戦略に優劣がないにも関わらず。

何かが起きる確率と起きない確率を足しても100%にならないような計算を、人間のこころは行っている。

そんな具体例を多数引き合いに出して、数学モデルとこころのモデルの違いを、丁寧に説明している。(エルスドールのパラドクス)

こうした不条理な考え方もする人間の織り成す社会や経済を、どう確率論でモデル化していくか、がテーマである。

この本は、確率のトリビア本のような宣伝文句が書かれていたが、まったくそうではない本だった。

もっと志が高い。

後半では、確率というキーワードを使って、正義や社会的平等、理想的な経済や政治という大きな問題にまで言及し、政策の矛盾や統計経済学者から見た、あるべき姿までを提案する。

[ コメント ]
数学については文系でも理解できる範囲に抑えられていて、確率論の本にしては読みやすい。

統計理論を俯瞰する入門書としておすすめ。

[ 読了した日 ]
2009年10月29日