【乱読NO.45-2】「数学的思考法 説明力を鍛えるヒント」芳沢 光雄 (著)(講談社現代新書) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 一言 ]
参考までに常々、Mathematicsを「数学」と訳すのは大いなる誤訳だとも言われている。
「数」は Mathematics では重要な分野にして「武器」だが、一部にすぎないからだ。
Wikipedia日本語版では、きちんと「数」以外のMathematicsの側面も過不足なく説明している。
数学(すうがく、ギリシア語μαθηματικ`o s英語mathematics)とは量、構造、変化、空間の様式について研究する学問である。
しかし、これも実は英語版の翻訳にすぎないことが以下をみるとわかる。
Mathematics - Wikipedia, the free encyclopedia
Mathematics is the study of quantity, structure, space and change.
さらに注目していただきたのは、日本語版では割愛されている語源が、英語版にはきちんと書いてあることだ。
The word "mathematics" comes from the Greek μ`a θημα (mathema) meaning "science, knowledge, or learning" and μαθηματικ`o s (mathematikos) meaning "fond of learning". It is often abbreviated maths in Commonwealth English and math in American English.
実はこのギリシャ語が「数学」の定義としては最も簡潔なものだ。
なんと、μ`a θημα は「学び」そのものであるし、 μαθηματικ`o s は「好学」である。
そのためMathematicsの訳語として「好学」を採りたい気もする。
「数学」はCalculusのために温存しておきたい。
ここで紹介した「数学的思考法」の「数学的」は、 Calcular ではなく Mathematical の方である。
最近「数式を使わないほにゃらら」とか「化学式を使わないあにゃらら」とかいう、文系向けの啓蒙書が多いが、これは実にもったいない。
本書では、数式やグラフは「抑えつつ」も、「これしかない」というタイミングで見事に使っている。
「全順序」の説明は見事だ。
絵が二つのっけってあるだけなのだから。
その全順序にのっとってリケーを整理すると、まず「好学」の一部門として「物理学」がある。
「好学」のうち、たまたまこの宇宙の秩序と合致する物をそう呼んでいる。
うち電磁気力が支配する領域を研究する学問を、我々は「化学」と読んでいる。
英語では"Nuclear Chemistry"という言葉は生きているようだが、日本語ではもはやあまり「核化学」とは言わない。
さらにその一部門として「生物学」と「地学」があり....という具合だ。
文系にだってちゃんとこれは適用できる。
Mathematicsの下の論理学(Logics)の下の言語学(Linguistics)という具合に。
Mathematicsはそれほど雄大でかつ緻密だ。
「学」と一文字で表したいぐらいだ。
そんなMathematicsが嫌われるのは、実は日本だけではない。
本書で取り上げられている日本の事例のひどさにも飽きれるが、私はそれよりひどい例をアメリカをはじめ他の国でも見てきた。
その理由をぼんやり考えると、数学最大の武器、抽象化がアダになっているのではないかと思った。
何かを証明する時に最初に行うのは、その証明すべき事項(数学ではこれを「集合」と呼ぶ)に共通する命題を取り出すのが第一歩だ。
これが「抽象化」なのであるが、数学が高度になるにつれ、具象から抽象を取り出すのではなく、抽象からさらなる抽象を取り出すという作業が増えてくる。
これは実は「それが一番効率的」だからそうしているのであるが、この抽象のカスケードが進めば進むほど、「現実離れ」した恐怖感が出てくるようである。
本書の著者芳沢氏は、このことを具体的に書きはしなかったが、教育者としてそのことを肌で知っているようだ。
どの章においても、必ず1ホップで具象、それも世の好奇心が垂涎する具象にたどりつくように書いている。
たとえば「期待値」の説明では、カビの生えた宝くじの例ではなく、野球のOERA値を例にしている。
本書は「数学を食わず嫌いになってしまった大人達への処方箋」だ。
私が唯一恐れるのは、「数学」の二文字を見ただけで本書を敬遠する人も少なくないのではないかという点。
よって最初にMathematicsを考えてみた。

前文は↓を参照。
http://blogs.yahoo.co.jp/bax36410/45977472.html?p=3&pm=l

[ 読了した日 ]
2007年2月3日