東京国際映画祭に出品されていたロシア製の戦争映画「Air」を以前から見たいと思っていました。
日本の映画祭に出て役者さんや監督さんも来日されていたようなので劇場かレンタルビデオで観ようと思っていましたが、一向にその気配が無くすでに2024年も暮れになりました。(2023年の映画)昨夜試しにYouTubeで検索してみたら、何とフルヴァージョンがアップされていました。(もちろん言語は元のロシア語です)
2時間半の大作で若い女性パイロットの活躍を描いた作品です。わたしも実録のソ連空軍女性パイロットシリーズをWebで発表しましたから大変興味深く観ることができました。
主人公はジェーニャという架空のキャラクターでブロンドヘア―にほっそりとした体つきに美しい顔立ちというロシア美人そのものという魅力的な設定でした。劇中にバレエをやるシーンが出てくるので元バレリーナという設定なのかもしれません。そんな彼女は20歳の若く気の弱い女の子でした。序盤では飛来したドイツ軍戦闘機に向かって愛用のリボルバー式拳銃を構えるけれど、引き金が引けない。そしてその後仲間の女性パイロットが次々と撃ち落とされる中で敵の背後を取るも射撃ボタンを押せずに帰還する始末。たまりかねた男性上官が馬を撃てと命令します。馬を撃ち殺して泣き出すジェーニャ。ところが前線から帰る時にある女性から赤ん坊を託されてコックピットの背後に乗せて出発。そこにドイツ空軍のエースパイロットのメッサーシュミットが現れるという設定。最初から背後を取られて被弾するけれど必死に逃げ回って最後にはこの敵のエースを撃墜し無事に帰還します。敵を撃墜して大はしゃぎのジェーニャでしたが赤ん坊は流れ弾により死亡。そんな悲しい経験の末に男性僚機と夜間に出撃。ドイツ空軍の爆撃機に襲い掛かるジェーニャ。まず1機仕留めて、更にもう1機燃え上がるまで射撃ボタンを押し続け2機撃墜の戦果を挙げます。ところが男尊女卑の根強いロシアでは女性パイロットの活躍は発表される事もありません。女性パイロット3人で語り合うシーンでは「わたし達、女の子がドイツ軍機を撃墜してやったのよ!」「敵を倒したのはわたし達!」と誇らしげに語り合うのです。そんな彼女達3人の女子チームがドイツ軍の戦闘機基地の襲撃に出撃します。地上の敵に猛然と襲い掛かる3人の女子。友達のマーシャの機が対空砲に被弾します。怒りに燃えるジェーニャは地上に並ぶドイツ軍機を破壊した後で対空陣地に機銃掃射を浴びせます。彼女の一撃で6名のドイツ軍兵士はハチの巣に。気持ちが修まらない彼女は更に残った対空陣地にも超低空で掃射を掛けます。待ち構えていたドイツ兵は全員彼女に撃ち抜かれて無残に全滅。ドイツ軍基地をメチャメチャに破壊し、地上の敵を皆殺しにして飛び去るジェーニャ。引き金を引けなかった彼女はすっかり本物の兵士になっていくのです。そんな彼女も敵に撃ち落とされて最前線に降下してしまい味方の兵士に助けられます。恐怖心でいっぱいの彼女は傍らに飛び込んできた初老のドイツ兵をナイフで何度も突き刺して殺害。更に翌日は白兵戦の中、瀕死の状態のドイツ兵を見つけると体中に拳銃の銃弾を撃ち込んで処刑します。もはや殺す事に何の躊躇もない彼女。ついには自軍の基地で味方の士官からレイプされそうになり膝蹴りで反撃しこの男の口に愛用の拳銃を突っ込んで撃ち殺してしまいます。そんな彼女も最後のシーンでは2機のドイツ軍機と遭遇。1機撃墜し、もう1機にも被弾させます。しかし相手も最後の力を振り絞ってジェーニャ機に突進し相打ちになります。墜落していくドイツ機。しかしジェーニャの機も被弾し脱出もできずにそのまま落下。このシーンが何とも切なく、これまで大勢の人を殺してきた美しき女の戦士も死の不安で顔を歪めて「ママ、ママ!」と叫びながら地上に激突して最期を迎えます。この物語実は架空のキャラクターによるフィクションですがどうやら実在したリディア・リトヴァクがモデルになっているようです。爆撃機を執拗に追いかけて弾丸を撃ち込み続けるシーンや地上部隊を襲撃して高揚感に包まれたシーンなどリリー(リトヴァク)の回想録に出てくる箇所が随所に見られます。当時は映画の設定と違って女性パイロットの活躍ぶりは大いにプロパガンダに利用されていました。
戦闘シーンは迫力があって中々のもの。ただしカメラワークがいまいちで特にコックピット内からの敵が非常に見づらくせっかくのシーンも目を凝らさないとという所が唯一残念なところでした。