昨日の朝6時のことであるが、朝食に納豆を食べたくて近くのスーパーマーケットに買い出しに行った。
買い物籠に納豆を入れ、じゃあ汁物もってんでカップの味噌汁もこれを求め、食後のコーヒーも飲んでこましたろかしらんって缶コーヒーのあるコーナーへ向かった。
するとこの時間には珍しく客がいて、しかも若い大学生と思しき男性客で、ジーンズにTシャツ、キャップ姿のどこにでもいるような何ら変哲のない客人であった。
その客人が片手に小銭らしきを持ってじゃらじゃらいわせ、缶ジュースを凝視しながら小首をかしげていた。
その様子が何やら尋常ではなく、ちょっと切迫感めいたものも漂っていて僕は缶コーヒーを買い物籠に入れて足早にそこを離れ、レジへ向かった。
レジでは若い女の店員が遠慮がちな愛想笑いを浮かべており、早速籠から品物を出して機械でバーコードを読み取り始めた。
「あのぅ……」
脇を見ると、先ほどの客であった。
背中を丸めてもじもじしながら、レジの店員を見詰めていた。
「あのぅ……、今、僕、28円しかないんですけど、29円のジュースって買えませんか?」
哀願するような口調で言った。
レジの店員は痛々しいくらいに困惑して、「あ」とか「いや」とか「う」とか言っている。
「あ、あ、28円しかホントになくて、でも、29円のジュースが欲しくて……」
男は小銭が乗っかった手の平を店員の前にかざして見せた。
なんという客人であろう。
というか、せめて僕の会計が終わってからにしてもらえないだろうか。
店員は相変わらず、「あ」とか「いや」とか「う」とか言っていて、会計が一向に捗らない。
僕は1円くらいカンパしようかとも思ったが、もしかしたら精神的にアブナイ人で、後で付きまとわれても困る。
そこで勇気を振り絞って見て見ぬふりをすることにした。
客はもう一度同じような趣旨のことを言って、ふるふるし始めた。
次の瞬間、客は妙案でもひらめいたのか、ぱっと明るい表情になって言った。
「あ、ツケとかきかないですか? 家に帰れば1円くらあるんです」
これに店員がどう答えたかというと、やはり「あ」とか「いや」とか「う」と返すばかりであった。
異変に気付いたのだろう、向こうから年嵩の女性店員がやって来て、客に事情を訊いた。
「どうされました?」
「あ、いや、あの、僕、今、28円しか持っていないんですけど、29円のジュースは買えないかなぁって……」
「お客様、申し訳ありません、たとえ1円でも不足している場合はお売りできないのです」
すると客はがっくり項垂れて、小銭を握っている手ではない方の手をジーンズのポケットに突っ込んだ。
「あれ?」
ポケットに突っ込んだ手をすぐに出す。
「あ、あ、あ、ありましたっ。1円ありましたっ!」
年嵩の店員が笑顔になり
「うわぁっ。良かったですねぇ!」
レジの店員が遠慮がちに拍手をした。
なんだ、これ?
僕は阿呆みたいに口を開けて、しばしその場に立ち尽くした。