一週間ほど前から天気予報をチェックし続けていた。
あまりにもころころ変わる予報は、即ち、安定しなくて予想がしずらい天気ということだ。
直前まで悩んだが、行かずに後悔するよりは行って後悔したの方がましだろうと、仕事終わりの金曜の晩出発した。
臨時増発便のバスに乗って、10時過ぎには上高地に着いた。
ここに来るのは2度目のはずだが、1度目は小学校の低学年だったから良く憶えていない。
最近、クライミングの"大衆化"が言われるが、登山のそれと比べると全然甘っちょろいものだ。
まさに無作為の大衆である。
人の多いのが苦手なので、覚悟はしてきた。ノープロブレムだ。
コンニチワ、と口をぱくぱくさせながら早足で歩くと、2時間あまりで横尾に着いた。
休憩してから、涸沢方面へ進む。
岩小屋跡、ふむふむこの辺りか。
雪解けの渡渉は確かに冷たいが、真冬の名張の悲壮感に比べればこれくらい屁のツッパリでもない。
渡渉した対岸の正面にルンゼの入り口があった。
付近に踏み跡があまり見えなかったので、それが取り付きに至るルンゼなのか確信が持てなかったが、行ってみるとすぐに踏み跡があり、それと分かった。
そのままルンゼを詰めて行くと、徐々に屏風岩東壁の全容が見えてきた。
行ける気がした。
取り付きには、僕のためにあるかのような素晴らしい岩屋があり、迷わず今夜の宿とすることを決めた。
明日の行動を短縮するため、T4末端の最初のピッチ60m(通常2ピッチ分)を登り、フィックスを張った。
岩屋に戻り食事の準備をしながら休んでいると、雨がパラパラき始めた。
そして、カラカラと石の落ちる音。
小石がパラパラと、拳大のがいくつか。
拳大のやつは、雪渓に「ボスッ」と突き刺さっていく。
自然落石か?だとしたら結構不安定なのかな?
あれでも直撃したら死ぬな。
そう思っていたら、しばらくして2人組のパーティーが懸垂で降りてきた。
雨も降り出し、やや焦っていたのだろう。
「たくさん石落としてすいません。誰もいないと思ってました。」
自然落石ではなかったようで、一応ほっとした。
2人が行ってからは、快適な岩屋に1人になった。
日が暮れ、いつしか雨は止んだ。
薄雲の間から、少ない星が見えた。
横になり、明日のことを考えながら、浅い眠りについた。