読書感想文の第3弾。一貫したテーマは「北海道」です。北海道で生まれ育った作家が、北海道を舞台にした著作で、自らの故郷をどのように表現するのか。

私も、大学まで北海道で育ち、その後14年ほど関東で暮らした経験があります。
気候、食べのも、文化。様々な事の違いを感じ、関東の土地に同化できずにいました。
同じ国でありながら「異国」と評される北海道の空気感を、どのようにストーリーの背景として書き切るのか。
このテーマに沿って、数冊を読み進めました。
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「そこのみにて光輝く」(佐藤泰志著。1989年、河出書房新社。写真は映画公開に合わせた文庫版)

函館に生まれ、函館で暮らした著者が、函館の夏を舞台に描いた作品。

心が傷ついたまま自堕落な生活を送る男と、貧困の中にあっても絶望をしていない女が出会い、惹かれ合う。

道南・函館の真夏はまとわりつく湿気を感じる。どうあがなっても、取り去る事が出来ない空気。
主人公の二人は、きっかけはどうあれ、苦しみを抱えたまま暮らしている。アッケラカンとする事ができない生活の背景として描かれる函館の情景が、読者を二人の物語に引きずり込む。

観光地ではなく、もがきながら生活を営む場としての函館。この雰囲気が活字が滲み出る。

物語は秋の到来で終わる。あっという間に過ぎる北海道のひと夏。この時間があれば人は癒され、変わっていく事ができる。
やはり、函館を生活の場とした著者だからこそ描けるのだと思う。北海道出身作家の作品に改めて共感した読後でした。