二郎、と聞くと何を思い浮かべるだろうか。人の名前、芸をするサル・・・、きっと人によってまちまちだろうが、ラーメン屋と答える人も少なくないだろう。
ラーメン二郎、決して万人受けはしない(と思う)が熱狂的信者を持つラーメン屋がある。自分も一度は食べてみたいと思って店に行ってみるも、いつも大行列ができていて諦めて帰っていた。話を聞くと、ものすごい量のめちゃくちゃこってりしたラーメン、ということが分かってくる。
しかし、わざわざ行列作ってまで食べるものなのか?何が魅力なのかは正直分からなかった。かといって、あの行列に並ぶ勇気も、体験者の話を聞く限り湧いてこない(多分完食できない・・・)。
そこで、体を張ってその魅力を解き明かすことはできないまでも、自称ジロリアンの筆者よりその臨場感を受けていきたいと思う。
私は、私がラーメン二郎に潜む経営のポイントを学ぶための5つのポイントを探すため、本書を読了した。
1つ目は、「好みやこだわりが多種多様なラーメン業界は「分散型事業モデル」」というものだ。
本書は、ラーメン二郎というラーメン屋をモデルに、経営のポイントを探すというものだが、ここではまずラーメン業界というものが経営学上、どのようなビジネスに当たるのかを解説している。BCGが提唱したフレームワークである「アドバンテージ・マトリクス」のうち、ラーメン業界はどれに当てはまるのかをここでは紹介しているが、ラーメン業界は、「分散型事業」に該当することになる。分散型事業は、「スケールが効かない、差別化できるかで勝負が決まる」と説明され、大企業が画一的な店を日本中に作ったからといって必ず成功するわけではなく、個々人のツボにはまるような店舗開発ができれば、大手とも対等に戦えるという。
詳細な解説は本書に譲るが、たしかにラーメンは個人個人で好みが分かれる。しょうゆ、味噌、豚骨、塩・・・、ほかにも各地方のものをいれればきりがない。さらには麺の太さ等も勘案すれば何十通りも出てくる。また、ラーメン店にも大手は存在するも、日高屋の一人勝ち、ということも聞かない。となると、本書にあるようラーメン業界はいかに個人の琴線に触れるような店が作れるかにかかってくるのだろう。
2つ目は、「日本の産業の多くは、製品自体で差をつけることはできない」というものだ。コモディティ市場、という製品自体で差別化できない状態を挙げ、日本のほとんどの産業はもはやこの状況に達しているとする。日本ではほとんどのものはどこの会社のものを買っても品質的に違いは無く、電化製品にしても日立、三菱、パナソニック、東芝、富士通・・・、どこで買ってもどれも同じであり、せいぜいブランドのラベルが違うだけ、くらいにしか見えない。そうなってくると、プラスαの勝負だが、それもたかが知れており、消費者からすれば「あれば便利だけど、無くても構わない」程度のものにしかならず、企業努力と消費者の満足度が正比例しないのが現状であろう。
3つ目は、「大学生にとって、二郎は第2の母の味であり、みそ汁と同様である」というものだ。
学生の多くは金がなく、多くの学生は少ないお金をやりくりしながら大学生活を送っている。そのような中で、安くて、うまくて、量が多い二郎を大学時代に獲得し、その顧客として囲う。そして、その学生が卒業してもまた、昔を懐かしんで二郎に来店し、末長く付き合っていくことが二郎というお店にとっては重要なのだとする。
この中で、ライフタイム・バリューという経営学上の言葉を使用してこのことを解説し、顧客には既存顧客と新規顧客に分けられ、企業は既存顧客を大切にすることが重要で、既存顧客は新規顧客に比べて低廉でプロモーションもでき、利幅の大きいビジネスができるとする。そして、この二郎の大学生の時点で学生の心をつかみ、社会人になって以降も末長く取引してもらうようにすることはまさにこのライフタイム・バリューに当てはまるとしている。
4つ目は、「市場牽引型」というものだ。
二郎のようなラーメンはほかのラーメン店ではお目にかかれない。おかしな量のチャーシュー、野菜、そして麺、これらはほかの追随を許さない突出したものである。つまり二郎には先例と言えるようなものはなく、二郎こそが先例である。そしてこの状況を市場牽引型といい、つまり二郎は自分たちでその市場における時流を作り消費者を引っ張るタイプの企業なのだとする。そしてその対概念としては「市場拾遺型」と呼ばれるものでほかの企業がまだ拾えきれていない顧客ニーズをうまく救いあげるものをいい、サントリーや花王などがその例として挙げられている。
5つ目は、「AISASモデル」というものだ。
二郎は宣伝をしない。少なくとも自分はお目にかかったことがない。ほとんどが口コミでその噂などを聞き、「すげえ店があるなぁ」と認識するに至って程度だ。現代の状況において宣伝なしで、商売をするというのは業界に限らず、なかなか厳しい。しかし、二郎はその宣伝をすることなく、着実に売り上げを出している。
それについて解説する中で、本書ではAISASモデルというものを紹介した上で、なぜ二郎は宣伝なしで顧客を呼べるのかについて説明している。AISASモデルとは、顧客がその商品・サービスを認識してから購買行動に至るまでの流れをチャート化したものであるが、それは次のような流れで動いていくとする。
A:注意・認識
I:興味・関心
S:検索
A:購入
S:共有
このような流れにて商品・サービスは回っていくと説明する。
本書では、実際にコンサルタントとして活動した筆者がそのノウハウと、二郎に対する熱い思いをリンクさせながら、なぜ二郎はここまで根強い人気があるのかについて解説している。
一度も二郎に行ったことがない自分が言うのもなんだが、二郎がなぜ行列してまで食べたい店なのか、その理由がなんとなくではあるが分かったような気がする。ただ、自分は食べに行くことはないだろうな、とも思った。
経営学の用語が様々なところで使用されてはいるが、本書では当てはめをしながら解説しているので、非常に分かりやすく読むことができ、経営学の知識を持たなくとも楽しく学ぶことができる。
また、本書の至る所に筆者の二郎に対する熱い想いが強く出ており、その先走り感もある種、面白く感じられる。
- ラーメン二郎にまなぶ経営学 ―大行列をつくる26(ジロー)の秘訣/牧田 幸裕
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