日本産の淡水魚で「幻の魚」と呼ばれているものにイトウ、アカメ、ウケクチウグイなどが挙げられる。この「幻」という見方や言い方は魚自体と釣りにおいてがある。特に上記三種は魚自体より釣りという見方の傾向が強いように思う。いずれも地域限定種であり、その生息地にまで行かないと釣れないこととイトウやアカメは日本の淡水魚の中で最大クラスになるため釣り人の多くはメーターを狙う。その夢のメーターを釣るのは簡単ではなく、しかも一人で一日複数匹釣るのはまず無理だ。生息地が地域限定種であることと食物連鎖の頂点に位置する魚であるため魚自体の個体数も基本的に多くないことも大きい。ただ朱鞠内湖のイトウ(漁協による放流)や浦戸湾のアカメ(国内でアカメが最も生息数が多いと聞く)のように釣れる生息地とされる水域の中で釣れる確率が高い地もあるが、おそらく釣り人にとっての「幻」はイトウやアカメぐらいになるとやはりメーターだろう?。聞けば四万十川ではメーターが釣れるのは年に数匹だという。しかもイトウやアカメは釣り人にとって「憧れの魚(釣魚)」でありその存在は別格だ。それぐらいだからまさに釣り人にとっては「幻」と言うのもうなずける。しかし、これらの「幻」という言葉は釣り人による影響が大きい。釣りの対象にはならず淡水魚愛好家や専門家ぐらいにしか知られていない魚類は「珍しい」とは言われるかもしれないが「幻」という言い方はされていないように思う。イトウやアカメ以上の「幻」が日本産淡水魚にはいるのだ。国の天然記念物に指定されているイタセンパラ、ミヤコタナゴ、アユモドキ、ネコギギなどやウシモツゴ、シナイモツゴ、ヒナモロコなどは危機的状況にある。さらに国指定の天然記念物は国に申請して認可されないと天然記念物にはされない。したがって実は天然記念物に指定されていないにもかかわらず危機的状況下にある魚種もいるのだ。ウシモツゴ、シナイモツゴ、ヒナモロコなどもそうだがタナゴ類もそれに当てはまる。そして国内で琵琶湖に次ぐ流域面積を誇る霞ヶ浦にもそういった魚種がいるのだ。霞ヶ浦湖岸にはかつて多くの湧水があったという。そのためかつては湖内にはカジカやホトケドジョウなども見られたという。しかし現在はこういった湧水地はほぼ完全にコンクリート化され消失した。現在カジカやホトケドジョウ、スナヤツメ、ギバチといった絶滅が危惧される魚たちは流入河川の一部のみでしか見られない。そして霞ヶ浦はかつてはタナゴの宝庫でもあった。おそらく種類よりもその数の多さだったのではないかと個人的に思っている。霞ヶ浦・北浦はかつてはタナゴ釣りのメッカであり霞ヶ浦の流入河川の一ノ瀬川や清明川はかつてタナゴ釣りでは有名な地であった。現在はほとんどの河川でタナゴが釣れるのは皆無であり、その釣り場は主に周辺のホゾと呼ばれる水路である。ある意味外来魚の脅威にさらされたタナゴたちはこういった所で細々と生き延びていると言った方がいいかもしれない。霞ヶ浦水系のタナゴの在来種アカヒレタビラ、ヤリタナゴ、マタナゴ、ゼニタナゴでその後国内外来種のカネヒラと国外外来種タイリクバラタナゴとオオタナゴが加わる。関東地方では長い間茨城県のみ生息していないとされていたミヤコタナゴは近年になり昔今の土浦市に生息していたことが判明したというが本当だろうか?。昔からタナゴ釣りで知られた霞ヶ浦で釣れた話も捕れた話も聞かない。個人的には疑問である。現在霞ヶ浦・北浦で見られる在来タナゴはアカヒレタビラ、ヤリタナゴ、マタナゴのみである。霞ヶ浦在来種のタナゴでゼニタナゴのみその生息が確認されなくなった。「霞ヶ浦の幻の淡水魚」とはこのゼニタナゴのことである。このゼニタナゴはタナゴ釣りにおいてもあまり釣れることはなくセルビン(魚を捕るもの)にもあまり入らないのだという。こういうことがこの魚の生息の把握をしにくくしている一面もあるようだ。さらに公共機関や地元博物館や子供参加の自然観察会などのおいての流入河川を含めた調査でも現在この魚は全く確認出来ないのである。おそらく絶滅しているのではないか?と考えられている。魚類に詳しい渡辺昌和氏によると以前ゼニタナゴが多く見られたとある場所があったがバスとギルが侵入するとたちまち姿を消したという。こういうケースは東北の伊豆沼が挙げられる。伊豆沼は霞ヶ浦と同様ゼニタナゴの多産地であった。しかしバスが侵入すると壊滅した。現在保護活動によりバスは徹底駆除され奇跡的に生き残ったゼニタナゴの個体が確認されたがバスの密放流が後を絶たずゼニタナゴはバスの脅威にその後もさらされている。釣り人はモラルを厳しく問われなくてはならないだろう。伊豆沼ではわずかではあるがまだ生存しているが霞ヶ浦でのゼニタナゴの確実な確認は1987年が最後でその後は全く確認されていない。現在霞ヶ浦産のゼニタナゴは琵琶湖研究所において保護され、いずれ霞ヶ浦の環境が蘇った日には湖に戻されるという(琵琶湖研究所ではその他の霞ヶ浦在来のタナゴも保護されている)。琵琶湖は長くバスとギルに悩まされてきたが霞ヶ浦ではバス、ギル以外にアメリカナマズというかつてない脅威にさらされ一時急増したペペレイや今増加しているというダントウボウやコウライギギとおそらく国内でこれほど外来魚の脅威にさらされてきた内水面はないかもしれない。そしてアメリカナマズと共に急増した外来種にオオタナゴが挙げられる。現在霞ヶ浦のほぼ全域で釣れるまでになったという。タナゴ釣りというものは繊細な釣りというイメージがありタナゴ釣りは小さい個体であればあるほど自慢にされる釣りだと聞く。特にオカメタナゴ(タイリクバラタナゴ)の極小サイズはタナゴ釣りの中では自慢されるという。タイリクバラタナゴはおちょぼ口で針掛かりしにくく、そのため市販のタナゴ針では釣るのが難しいため針を研いでさらに針先を小さくして使うぐらいなのだ。だいぶ昔からタナゴ釣りも在来タナゴより極小のタイリクバラタナゴを釣ることの方が釣り人に有難がられるというものになり、ここでも外来種に取って代わられたということなのかもしれない。そして普通釣りの世界ではより大きいサイズを釣るのが自慢されるものだがタナゴ釣りはその逆でより小さいサイズを釣るのが自慢されるという世界でも珍しい釣りなのだ。だがオオタナゴに関してはそんな釣りは当てはまらない。本国中国では27㎝の記録があるというが日本では10~12㎝ほどが主なサイズのようだが普通在来のタナゴは数cmほどが多い(カネヒラは別だが)ことを考えるとやはりタナゴとしては大型であり、しかもこのオオタナゴ容易に釣れるのだ。以前霞ヶ浦の流入河川で私はルアーで同行した知人はエサでやったのだが知人に掛かるのはタモロコとオオタナゴばかりだった。オオタナゴという名前は知っていて霞ヶ浦で急増していることは知っていたものの実物を見たことはなかったためこうも容易にしかも数も釣れてくるのには驚かされたことを覚えている。他種のタナゴと違い釣り自体に繊細の欠片もなく容易に釣れしかもアタリもハッキリとあって(人によってはアタリがブルーギルに似ているという人も)見方によっては釣りやすいまたはファミリーフィッシングにあった魚かもしれない。アメリカナマズの爆増に対しバスもギルさえも減っていく霞ヶ浦の中でダントウボウ、コウライギギとこのオオタナゴは確実に数を増やし生息域を拡大しているのである。こういいた霞ヶ浦の環境下、状況下の中でゼニタナゴは誰も気がつかないうちにひっそりと姿を消していき「幻」になってしまったのかもしれない。

 

イトウ(フィッシュレプリカ)

釣り人には「幻の魚」と言われる。「幻の魚」の代名詞的な魚

アカメ(フィッシュカービング)

釣り人にはイトウと並び「幻の魚」と言われる。

霞ケ浦

かつて霞ヶ浦は湖岸に湧水が多くあったというが湖岸のコンクリート化によりほぼ完全に消失。湖内にはカジカ、スナヤツメ、ホトケドジョウなども見られたというが今は流入河川の一部のみに生息する程度になった。

カジカ(絶滅危惧種・水族館展示水槽)

霞ケ浦の流入河川のごく一部にのみ生息。

ホトケドジョウ(絶滅危惧種・水族館展示水槽)

霞ケ浦の流入河川のごく一部にのみ生息。

ギバチ(絶滅危惧種・水族館展示水槽)

霞ケ浦では流入河川の一部のみに生息するが稀に河川の増水時に湖内に流されたものが獲れることがある。

ゼニタナゴ(絶滅危惧種)

今や天然記念物に指定されてもおかしくないほどその数は激減した。介護生活と低収入者になる前に日本産淡水魚を飼育していたがタナゴ類もカネヒラ、アカヒレタビラ、シロヒレタビラ、ヤリタナゴ、イチモンジタナゴ、マタナゴなどを飼育していたことがありゼニタナゴも飼育したことがあったが他のタナゴと比べ長生きしたためしがなく飼育が難しい印象がある。

オオタナゴ(特定外来種)

霞ケ浦で在来タナゴは激減または減少してゼニタナゴのように事実上絶滅した中でオオタナゴは今や霞ヶ浦全域で釣れるまでになった。他のタナゴ同様魚食性ではないが産卵場である貝類がオオタナゴに占有され在来タナゴは追いやられている。霞ヶ浦ではただでさえ貝類が激減しており今後も在来タナゴは減っていくと思われる。