ヤグシュト盤コシュタナ | Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

しがない歌劇愛好家Basilioの音盤鑑賞録。
備忘録的に…

ペタル・コニョヴィッチという作曲家については、日本語では作品の情報も本人の情報もほとんど出てきません。拙い英語で調べてみると、主に20世紀に活躍したセルビアの作曲家ということですが、時代を考えるなら"ユーゴスラヴィアの作曲家"という方がしっくり来る気もします。私自身、曲がりなりにもチャンガロヴィッチやポポヴィッチに関心を持っていなければ、知らないままであったでしょう。

『コシュタナ』はスタンコヴィッチの同名の戯曲を原作にしたオペラということで、ロマの娘コシュタナをめぐる地主やその息子の争いや、彼女の仲間たちの華やかでもあり物悲しくもある人間模様が描かれています。コシュタナはカルメンのような運命の女ではなく、どちらかというと自分の魅力により自分自身が、周囲の人々に消費されていくことに葛藤する現代的なヒロインで、後半の大きなアリアは実力のある歌手が演じればかなり惹きこまれそう。全体的な音楽も民族色の強さと現代っぽさが融合していて刺さる人にはぶっすり刺さると思います。但し物語としては、というかオペラとしては聴きどころの配分がもう少しで、そのためにやや散漫な感じもあるのが惜しいです。


残念ながらCDはもちろんレコードも手に入らず、恐らくLPから起こしたYouTubeで視聴したため音質はいまいちですが、十分聴ける代物です。指揮者のヤグシュトについては全く知識がありませんが、スラヴの音楽ならではのエキゾチックさが際立つのはお国ものならではでしょうね。他方で現代音楽的な緊張感(不安定な調整のフルートソロの上でバリトンの独白とか)もビシッと決まっています。


そもそもこの演目に関心を持ったのはミトケを演じるチャンガロヴィッチと、ハジ=トマのポポヴィッチがいたからで、どちらにもまとまった出番があるのは嬉しいですね笑。ミトケは物語としてそこまでスポットをあてなくてもいいような気もする役なのですが、或意味彼こそがロマの悲哀と陽気さの代表なのでしょう。昔の愛を思い出して嘆く大規模な独白や、終幕コシュタナに別れを告げる悲痛な歌など特に後半に芝居のいる見せ場が多く、チャンガロヴィッチ向け。まさに彼のために書かれたと言われても納得する堂にいった役者ぶりが楽しめます。地主のハジ=トマはコシュタナを嫌っていたはずが途中から恋い焦がれるようになるバリトンらしい複雑な役どころで、実力者ながら録音がかなり限られるポポヴィッチで聴けるのは本当にありがたいですね!頑固そうな歌い口だからこそ先述のフルートソロのモノローグでの戸惑いが印象的です。もう1人聴いたことのあったクルネティチはロブストな声が素敵なのですが、地主の息子のストヤンという役が思った以上に活躍しないしまとまった歌もない!彼に歌があった方がバランスがいい作品になると思うのですが……。以下主役を含めて知らない人ばかりですが、コシュタナのイェトコヴィッチが素晴らしいですね!彼女が自分の生き方に疑問も抱くアリアは迫真で、この曲のよさを最大限に出していると思います。地主の妻カタは夫も息子もコシュタナへの愛に狂うなんとも辛い役で、ミロシェヴィチというメゾが深い声でいい味を出しています。派手なアンサンブルをバックにした語りもうまい。


やはり隠れた名作の発掘は楽しいですね!この作品もまた手に入れられるようになるとよいのですが。