フォン=カラヤンLIVE盤ボリス・ゴドゥノフ | Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

しがない歌劇愛好家Basilioの音盤鑑賞録。
備忘録的に…

多くのキャストは聴いたことが大なり小なりあるものだったのですが、ヘルレアのランゴーニがどうしても気になって購入。超稀覯盤でしたが、買ってみて大正解でした。


フォン=カラヤンのその他のボリスの演奏と同様リムスキー=コルサコフ版の絢爛豪華なもので、ボリスの死で終わります。また、この人のライヴには良くあるとおりここでも盛大なカットがなされています。このあたりの楽譜の取扱いや重厚なオケの響きなど好き嫌いは出ると思いますが、オペラとしての呼吸が感じられる音楽です。良くも悪くもこの演奏は全体に「オペラっぽい」。


歌手陣ではまずは期待のヘルレア。怪しい魅力のあるこの役を分厚い声でどう演じるかと思いましたがやはり彼は器用な歌手です。ここでは雄弁すぎないことがかえってミステリアスで、マリーナとの場面は派手ではないながらも説得力があります。ユリナッチのマリーナはほかに「これはベストだ!」いう演奏があるのでいくぶんおとなしい印象ですけれども、娘らしさとプライドの高さのよくバランスした歌唱と思いました。続いて偽ディミトリーのウズノフは残っている録音がほとんどこの役ではないかという人、言ってしまえばスペシャリストだけにこちらも安定した歌唱。ライヴらしい勢いがあるのが嬉しいです。ピーメンのギュゼレフもお得意の役ですが、ライヴらしい覇気が感じられます。残念ながら最初のアリアなどかなりカットされているのですが、死の場面の前の語りはボリスを追い詰めるのに説得力十分な迫力で、オペラらしい歌唱としてはこれ以上ないものだと思います。ライヴらしいといえばヴァルラームのディアコフもそうですね!彼も何度もこの役を演じていますが、一番乗っていると思いました。やや#な気もしますが、この役の豪快さを出すのに一役買っているようです。シュイスキーのシュトルツェは実にアクの強い声で一筋縄ではいかなさそうな印象。予想よりさかしらな感じは少なかったのですが、声を考えるとむしろバランスはいいのかもしれません。聖愚者のマスレンニコフもはまり役。

で、何故この演奏がよいと感じたかといえば、またしてもボリスのギャウロフでした。キャリアのいろいろなタイミングで彼はこの役を歌っていますし、いずれの録音でも優れた歌唱ですから、ある程度こんな感じかな~で聴き始めてしまったのですが、これはとんでもなかった。ライヴならではの荒々しさと声の状態のよさ、それでもキープされるスタイリッシュさなど抜群でした。もちろんもっと端正に歌われたものが好みの方もいらっしゃるとは思うのですが、オペラの歌唱として自分にはどストライクでした。ああ、これで漸く彼のボリスを聴くことができた、という喜びが大きいです。何故これが手に入りづらい状態に甘んじているのか……。


ボリスとか露ものとか狭い範囲の話ではなく、すべてのオペラ好きの方にオススメしたい演奏です。