小澤盤オネーギン | Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

しがない歌劇愛好家Basilioの音盤鑑賞録。
備忘録的に…

ギャウロフを追いかけはじめた頃から存在は知っていたものの入手していなかったもの。理由は簡単で彼の演じるグレーミンの出番の短さとモノの高さで、しかも彼のこの役はスタジオ録音もあるしなあなどと思っていたのでした。ですが他の役でも手をつけていなかった音源で瞠目することも増えてきたので思いきって購入したのでした。


声の響きの豊かさと相乗効果としての歌の美しさでいけばショルティ指揮のスタジオ録音が圧倒的ですが(第一声が良すぎてスピーカーを2度見する)、スケールの大きさではこちらに軍配が上がります。楽器の衰えは否定できないのですけれども、老軍人というキャラクターを考えれば違和感のない錆び具合と、場を征するカリスマぶりは得難いものでしょう。実はオネーギンのブレンデルには彼ほどのカリスマはないのですが、それは瑕疵と言って差し支えなく、ブレンデル個人としては極めてリアリティの高い歌唱です。もっと明るい声質のイメージだったのですが、ここでは冬の午後の翳りを思わせるような暗さのある響きで、斜に構えて憂鬱に憑かれたオネーギンにぴったりです。思っていたとおり輝かしく軽やかな声で光っていたのはペテル・ドヴォルスキーで、彼の記録のなかでもベストではないでしょうか。明るい声だからこそ2幕の決闘の申込からアリア、死に至るまでの悲痛さが増します。

チャイコフスキーに定評のある小澤の指揮は、ときにあまりにも豊麗で露風ではないなと思ったりもしたのですが、お国ものとして振る指揮者とは違う魅力を引き出していると最終的に思いました。何がと言われると厳しいのですが、ちょっと仏ものみたいなやわらかさがあるように感じます。

最後にタチヤーナのフレーニ。彼女のこの役は定評がありますし、全身全霊、渾身のパフォーマンスだと思います。流石はフレーニ、歌も抜群にうまいしスタイリッシュ。なのですが、残念ながら僕にはあまりしっくり来なかったというのが正直な感想です。妙な言い方ですがあまりにもオペラティック過ぎるというか、伊流儀の歌という気がします。彼女はかなり意識して歌っているからだと思いますが、ヴェルディやプッチーニのようになってしまうことはしっかり避けているのはわかるんです。が、それでもやはりタチヤーナとしては自分の趣味からは外れてしまいました。


演奏の質そのものは高いと思うので、オネーギンという演目に妙にこだわりがなければ(というかフレーニが受け入れられれば)、楽しめる音源と思います。