ネゼ=サギャン盤ドン・ジョヴァンニ | Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

Intermezzo ~幕間のおしゃべり~

しがない歌劇愛好家Basilioの音盤鑑賞録。
備忘録的に…

軽い気持ちで入手したのだけど、これドンジョ史上指折りの名盤じゃないだろうか。メンバーはいまのスターたちとはいえ、ここまでの超名盤が出てくるとはいやはや恐れ入りましま。

まずネゼ=サギャンの作る音楽がこの音盤にものすごい生命力を与えているように思います。緩急が結構はっきりついているのだけど、ひとつひとつとても納得行く。ブッフォ的な要素も超現実の迫力も非常にバランスよく包含しているのです。アンナの最初のアリアや1幕フィナーレ、レポレロをしばく重唱から彼の逐電まで実に軽快でいきいきした愉しい味わいの一方で、騎士長が出てからのどす黒い迫力、セリアらしい緊迫したやりとりなどのうまみもきちんと出しています。

歌唱陣も比類ないもの。ジョヴァンニのダルカンジェロとレポレロのピサローニは、まず深くて重みのある声のジョヴァンニと若さと明るい輝きあるレポレロという組合せにちょっと普段と違う趣向を感じます。しかもそれがばっちり当たっていて、絶妙にノーブルで威厳のあるジョヴァンニとフットワークの軽いレポレロを造り上げているのが見事です。マゼットのヴォルフもどっしりした声ながら突っ走る若さが実にらしい。そして騎士長のコヴァリョフ。決して迫力で圧殺する訳ではありませんが、光沢のある堂々とした声で説得力があります。オッターヴィオのビリャソンは、ややラテンの脂と輝きが強すぎる気もしますが、情熱的な歌い回しは類を見ません。
女性陣も素晴らしい!エルヴィーラのディ=ドナートについては彼女の歌唱の中でもベストのもののひとつと思います。この役はシリアスになりすぎてもコミカルになりすぎても違和感を出してしまう上にこの作品のカラーを決める重要な役ですが、その匙加減が絶妙。アンナは
意外と面白くない役になりがちだと思うのですが、ダムラウの気の強そうな、その一方で清純そうな人物作りが効いています。いや、アンナって割とそういう役なんですが、それがこれだけ歌唱のキャラクターと合っていることも珍しいかなと笑。エルトマンが演じるツェルリーナはそこ行くとちょうどいい感じで蓮っ葉で好対照を成しています。かなり若いけれども成熟した女性を感じさせるというツェルリーナで気に入りました。
歌唱陣はいずれも歌唱にヴァリエーションを加えていますが、これも効果的。モーツァルトでヴァリエーションの妙味を感じることは少ないのでこれは望外の楽しみでした。

超オススメ。