8に幻滅して9に移行しましたが、これは良かった。とっても、良かった。
シリーズ最高傑作と推す声あるのもうなずける。
何をもって「最高」と評価するかは視点によって変わるが、「高速インターネットやスマホの普及以前」という時代区分で言えば、確かにすべてのFFシリーズの集大成だったといってよい。
「原点回帰」のスローガンのもと制作されたらしいが、決して同じものの反復ではなく、実験や挑戦を繰り返して築かれた歴史を回収し、一つの時代の到達点として昇華させたスクウェアのレガシー、究極の(=final)ファンタジーであった。
すべての過去作へのオマージュと言ってもよい。
※ただし、8から相続したカードゲーム、しつこいな。8は忘れよう(笑)。
戦闘システム・魔法・アイテム・ジョブ固有のアビリティなど、実はファミコン時代ですべて確立されていたものだ。
改めて最初に作った人はすごい。
結局、これが一番いい。
「死んだらすべては星に帰るが、記憶は保存される」、という生命観・宇宙観は7の「ライフストリーム」と似ている。
そこに1~5と続いた伝統の「クリスタル」を掛け合わせたのが9の世界の全体像。
ただし入り口はハードルを下げた状態で、ドラクエ感(ブラネ)やディズニー感(スタイナー)での幕開けは、新規ユーザーにも親しみやすい形になっている。よくできた作りだ。
ジタンとガーネットはラピュタのパズーとシータを彷彿させ、これもひとまずは王道ボーイミーツガールの展開。
大衆性がある、と言っていいのかどうか、しかし構成としてはそれも前半までなので、オリジナリティに欠ける、ということは全くない。
FFとしての本領発揮は後半から、ということになる。
ドラクエ感、と指摘したが、ドラゴンボール感というか、鳥山明感というか、そういう要素もいい意味で時代っぽい。
ジタンは基本ポジティブで尻尾もあるからドラゴンボールの悟空のようでもあるし、サラマンダーは緑色のミュータントっぽい体で動機も主人公ジタンに対する対抗意識だから、ピッコロに似ている。
主軸以外にも登場キャラ全員の個性や物語が深く描かれているのは6からの伝統か。
バランス的にはやはり7で完成されていたようにも思う。
実際、7からの相続、と解釈するなら以下のようになる。
「体を張るおっちゃん枠」 バレット→スタイナー
「動物キャラ枠」 レッド13→フライヤ
「奇天烈キャラ枠」 ケット・シー(関西弁)→クイナ(語尾~アル)
「子どもキャラ枠」 ユフィ→エーコ
「格闘家枠」 ティファ→サラマンダー
ヒーローとヒロイン、そして宿敵も同様。
「ヒーロー」×暗い出生の秘密
クラウド(ジェノバ:セフィロスコピー)→ジタン(ジェノム)
クラウドはジェノバ細胞を埋め込まれた「人形」であり、ジタンは「魂の器」とする目的で生み出された人造人間ジェノム。
自我を取り戻すことが戦いの動機になっている。
「ヒロイン」×メインストーリーとの因縁
エアリス(セトラの末裔)→ガーネット(召喚族の末裔)
どちらもほぼ絶滅した民族の末裔。
ティファが担っていた枠が不細工なサラマンダーに回収されてしまった分、ガーネットにはあのボディライン強調衣装になってしまったのかな?タンクトップ(白)+スパッツ(黒)→全身タイツ(オレンジ)。まあ、ギリギリの線での絶妙なバランスだったのだと思う。
「宿敵」×黒幕としての説明責任
セフィロス→ガーランド&クジャ それだけじゃ弱いので永遠の闇
どこまでも主人公たちをモニタリング&ストーキングして、延々とハラスメントを繰り返しながらも、最終的に秘密は全部説明してくれる案内役。圧倒的に強大な力を持っているはず、なのだが、セフィロスに比べればおじいちゃんもナルシストも弱すぎる。
ペプシマンと揶揄されるラスボス「永遠の闇」は、3暗闇のくも、4ゼロムス、5ネオエクスデスと存在意義や動機に共通点がある。
基本的に思想が反出生主義というか、生そのものに絶望していて、だったら生まれてくることそのものを原理的に予防するために、すべてを無にしてしまおう!という発想。
自分の思想に酔ったまま秘密を知らない相手を「愚かな弱者」として見下しているのだが、自分自身もまた被造物であることを棚に上げて、つまり自身の存在も力も有限であり、相対的に人間を超えていたとしても、原理的には自分より大きなものが存在しうるという時点で、意識を持った存在は例外なく「愚かな弱者」にしかなりえない。そのことを否定するには神になるか、すべてを無にするしかない。
FFシリーズのラスボスがみんな似たようなことを言うのは、反出生主義がたどり着く必然的結論なのである。
(ケフカ・セフィロス・クジャのようなナルシストこそこの思想に取りつかれやすいのだろう。)
神になるのもすべてを無にするのも、それがまさにファンタジー(空想)でしかありえないという点に、すでにこの世界に生まれ、現実に幻滅しながらゲームに没頭しているプレイヤーが受け取るメッセージがあるだろう。
それぞれのキャラクターが皆幸せになるシリーズ中一番ハッピーなエンディングの輪の中にも、ビビはいない。
元気に走り回る「ビビのこども」を見送りながら自身の死を報告したビビ。
いつかは死すべき有限の存在であるという事実に対して、歴代のラスボスが突き付けた「反出生主義」という態度をとるのではなく、むしろ逆にそのこと自体を根拠にして「誕生肯定」へと至る。
1作目から登場している黒魔導士にこのメッセージを届けさせたところに、歴史の完成を見た。