日本近代詩の父と呼ばれる詩人・萩原朔太郎(1886-1942)。
大正から昭和にかけて、
群馬県前橋(文明のない、地方の小都市と朔太郎は言う)に生まれ、
「ふらんすへ行きたしと思えども、フランスはあまりに遠し」と
西洋文化にあこがれながら詩を書た。
「その手は菓子である」この詩に
朔太郎の「わっぷる」は登場する。
平仮名であえて「わっぷる」
<朔太郎が生まれて間もなく、ワッフルも日本にやってきた。
ワッフルが生まれたあこがれの場所、
銀座に足しげく通った>と番組の紹介する。
その朔太郎ごのみ、
日本生まれのふわふわのワッフルに
あんずのジャム。
それをグレーテルが作りながら、
朔太郎の詩について、
前橋散策を紹介した番組。
04月21日(月)11:05~11:30に再放送があります♪
その手は菓子である
『靑猫』(初版・正規表現版)
その手は菓子である
そのじつにかはゆらしい むつくりとした工合はどうだ
そのまるまるとして菓子のやうにふくらんだ工合はどうだ
指なんかはまことにほつそりとしてしながよく
まるでちひさな靑い魚類のやうで
やさしくそよそよとうごいてゐる樣子はたまらない
ああ その手の上に接吻がしたい
そつくりと口にあてて喰べてしまひたい
なんといふすつきりとした指先のまるみだらう
指と指との谷間に咲く このふしぎなる花の風情はどうだ
その匂ひは麝香のやうで 薄く汗ばんだ桃の花のやうにみえる。
かくばかりも麗はしくみがきあげた女性の指
すつぽりとしたまつ白のほそながい指
ぴあのの鍵盤をたたく指
針をもて絹をぬふ仕事の指
愛をもとめる肩によりそひながら
わけても感じやすい皮膚のうへに
かるく爪先をふれ
かるく爪でひつかき
かるくしつかりと押へつけるやうにする指のはたらき
そのぶるぶるとみぶるひをする愛のよろこび はげしく狡猾にくすぐる指
おすましで意地惡のひとさし指
卑怯で快活なこゆびのいたづら
親指の肌へ太つたうつくしさと その暴虐なる野蠻性
ああ そのすべすべとみがきあげたいつぽんの指をおしいただき
すつぽりと口にふくんでしやぶつてゐたい いつまでたつてもしやぶつてゐたい
その手の甲はわつぷるのふくらみで
その手の指は氷砂糖のつめたい食慾
ああ この食慾
子供のやうに意地のきたない無恥の食慾。