8月9日(金) 明後日、朗読いたします。
萩原朔太郎『月に吠える』より
序
蛙よ
蛙の死
蛙よ
蛙よ、
靑いすすきやよしの生えてる中で
蛙は白くふくらんでゐるやうだ、
雨のいつぱいにふる夕景に、
ぎよ、 ぎよ 、 ぎよ、 ぎよ と鳴く蛙。
まつくらの地面をたたきつける、
今夜は雨や風のはげしい晩だ、
つめたい草の葉つぱの上でも、
ほつと息をすひこむ蛙、
ぎよ、 ぎよ、 ぎよ、 ぎよ、と鳴く蛙。
蛙よ、
わたしの心はお前から遠くはなれて居ない、
わたしは手に燈灯をもつて、
くらい庭の面を眺めて居た、
雨にしほるる草木の葉を、
つかれた心もちで眺めて居た。
蛙の死
蛙が殺された、
子供がまるくなつて手をあげた、
みんないつしよに、
かわゆらしい、
血だらけの手をあげた、
月がでた、
丘の上に人がたつてゐる。
帽子の下に顔がある。
幼年思慕篇