大井恒行 句集『水月伝』ふらんす堂 2024年刊
ご恵与いただきました。
大井恒行さんは「豈」同人。
青灰の落ち着いたいろあいの表紙、そこに白箔でタイトルと著者名。
すっきりとして、凛とした佇まい句集。
<水月>とは
1水と月
2 水面に映る月影
3 人体の急所の一。みずおち。
4 軍陣で、水と月が相対するように、両軍が接近してにらみ合うこと。
この四つの意味がある、とか。
句集「水月伝」はその意味をふくんでいるかと思えます。
Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳと四章にわかれ、
2000年以降の句が編集され構築されて。
Ⅰは時代や地震や原発への批評性のある俳句。
が、言葉のその深度でもって、こちらへ突き刺さってくる。
Ⅱは、分かち書き、多行書きの句も。
韻律が心地よく、響いてくる。その余情。
Ⅲはこの23年間に旅立たれた敬愛の人や友人への追悼。
この俳句という最短定型のなかにこれほどの悼み、
その方の来し方を彷彿させえるか、と。感嘆。
Ⅳは、ご自身の句へのおもい、
<大井恒行>という俳人の眼をとおした自然など。
気の好きな句、惹かれた句や気になる句がたくさん。
ほんのすこしですが、こちらに。
死というは皆仰向けに夏の兵
木の影に 影の風あり 影の木も
原発忌即地球忌や地震の闇
触れているこの世の手には地震の風
鳥かひかりか昼の木に移りたる
雨を掬いて水になりきる手のひらよ
赤い椿 大地の母音として咲けり
手を入れて水のかたさを隠したる
真昼よりこぼれし月を鳥とする
浄不浄凍てを逃れず黒き鶴
他界の春を与太な兜太よ九八
ついに椿 未完ならんか句も俳も
そして、あとがきにこの句が置かれて。
尽忠のついに半ばや水の月