渡辺 保『舞台を観る眼』角川学芸出版 2008年刊
この方は演劇評論家の第一人者
その著者のエッセー集。
白洲正子、三島由紀夫、折口信夫を軸として
その間におもに90年代の歌舞伎、新劇、ミュージカル、ダンスの劇評を置く。
その熟達された、研ぎ澄まされた<眼>で観られた
舞台、芸術、人が明晰な文で書かれて。
<舞台を観るとは目にみえないもの――
今、目の前に開けている景色の向こう側にひろがるものを、
どう言語化するか、その戦い>だと。
なかでも「白洲正子」に惹きつけられた。
白洲の<目>がどのように<能>をとらえ、
梅若実(うめわかみのる)や友枝喜久夫(ともえだきくお)を観ていたか。
<骨董>、<人>をめぐり渡辺保はこう言う。
「白洲正子の日常の生き方そのものがそのまま文体の感覚になる。
白洲正子の存在自体が作品である」と。
「弛まずに自分の率直さ、きびしさそういうものを保持していかねばならない。
なんの装飾もなく、無駄なものもなく、すべてが洗い流されて、
どう動かしようもないものだけがさん然と輝く」
そして白洲は「自然のように自分の生きる姿をそこに映す。
そこに自分と文章の一体化があり、離れがたい趣がみえる。」
こう書く渡辺の筆も一分のスキもない。
白洲正子『お能』をふたたび読まねば・・・
◆目次
1 白洲正子の思い出
白洲正子恐怖症
白洲正子と能
白洲正子旅日記
2 舞台の精神と身体
「もの」への執着
国家を殺す女
回想にすがる女
批評の力
ベジャールの日本論〈他〉
3 戯曲の深奥
タテことば―三島由紀夫の戯曲
小町とルネ―三島由紀夫の変身譚
もう一つの方法論―久保田万太郎の戯曲
4 批評家の視座
定紋の椀
豊竹山城少掾
清水雅さん
S/N
試写室の涙〈他〉
5 折口信夫という存在
劇評家・折口信夫
折口信夫の陰謀