「本心」とはなにか 平野啓一郎『本心』2021年 文藝春秋社刊 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

平野啓一郎『本心』2021年 文藝春秋刊

 

 

「--母を創って欲しいんです」

 

小説はこのフレーズから始まる。

 

2040年、29歳で母を亡くした息子・朔也は

 

母一人、息子一人の母子家庭。

 

その背景は

 

「自由死」が合法化された近未来の日本。

 

最新技術AIを使い、

 

生前そっくりの母VF(ヴァーチャル・フィギュア)を再生させた息子は、

 

「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。

 

その母の生前の友人だった女性・三好、

 

かつて交際関係のあった老作家・藤原亮治を訪ねる。

 

その人たちから語られる、

 

まったく知らなかった母のもう一つの顔。

 

平野の分人主義で語られる<母>。

 

 

この小説で唯識的ヴィジョンにが深く美しい。

 

ヘッドセットを装着して三○○億年という宇宙の時間スケールのなかで

 

「死後も消滅しない」未来を体感する、その宇宙の描写のリアリティ。

 

             そこでは

 

<「本当の自分」や肉体の「輪郭」はなく、自分が

 

「元素レヴェルでは、この宇宙の一部であり、つまりは宇宙そのものになる」>p340

 

「すべてのものは、それが物であれ、人間であれ、現象であれ、

 

因と縁が関係しあうことで、たえず変化する。

 

生じ、とどまり、変化し、滅する」

 

 

 

「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」を鋭く描写し、

 

この作品を読み終えて、

 

ふたたびプロローグにもどると、

 

「時間と不可分に生きている人間は、

 

その存在がそのまま貴重だ。」