萩原朔太郎『月に吠える』 扉
田中恭吉「画稿より」
探偵登場!
朔太郎の詩の<探偵>は
玻璃の衣装を着て、なかなかダンディです♪
映画や手品が好きで、江戸川乱歩と
1931年から親しく、よく上野や浅草へ行った、とか。
殺人事件
とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裝をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびのあひだから、
まつさをの血がながれてゐる、
かなしい女の屍體うへで、
つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。
しもつき
上旬(はじめ)のある朝、
探偵は玻璃の衣裝をきて、
街の
十字巷路(よつつぢ)を曲がった。
十字巷路に秋のふんすゐ。
はやひとり探偵はうれひをかんず。
みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、
曲者(くせもの)はいつさんにすべつてゆく。