オペラ「ドン・ジョバンニ」ザルツブルグ音楽祭2021年8月 NHKBS 2022年1月放映 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ザルツブルク音楽祭2021  歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 モーツアルト作曲

 

2021年8月の公演を録画で観ました。

 

 

歌手たちの歌唱や演技はもちろんのこと、

 

テオドール・クルレンツィス指揮が率いる

 

管弦楽・合唱:ムジカエテルナの素晴らしさ、

 

さらに演出・美術・衣装・照明をつかさどる

 

ロメオ・カステルッチが凄い!

 

哲学的ともいえる、

 

傑出した舞台ではないでしょうか。

 

 

1幕冒頭、

 

舞台は教会の内陣。

 

ここにある十字架を取り壊し、

 

画像を剥がし、聖人の像を墜落させ

 

信者のベンチを運び出す。

 

なにも無くなった空間を1っ匹の牡山羊が横切ってゆく。

 

神のいない世界の物語、と言っているのでしょうか。

 

 

ここでやっと<序曲>が始まる。

 

     管弦楽のムジカエテルナ、

           

    現代的なオーケストラになじんだ耳には

 

ハッと思えるまろやかな音色。

 

惹かれました。

 

 

白を基調とした舞台は

 

1シーン、どの1場面もうつくしい。

 

 

時代は特定されされませんが、

 

ドンジョバンニとレポレッロは主従でありながら

 

真っ白の三つ揃えの衣装で、

 

髭も同じで、相似形。

 

レポレッロも立場が変われば、

 

「ドン・ジョバンニ」となんら変わることのない<男>。

 

例の「カタログの歌」ではコピー機と

 

そこから黒々とした髪がこの異界を垣間見させて。

 

 

ドンナ・アンナは黒のドレス、

 

騎士長、こちらも白の三つ揃え。

 

 

村の結婚式でのツェルリーナ、

 

透明感のあるアンナ・ルチア・リヒターが愛らしい。

 

そのツェルリーナも式の当日にドンジョバンニに靡いて。

 

彼女の背後にヌードがいて、

 

内面の欲望を象徴するかのよう。

 

他のシーンでも黒子が深層心理をになって。

 

 

「お手をどうぞ」の二重唱、

 

2幕の「ぶってよ、マゼット」のアリアはとってもチャーミング。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2幕ではひかりの交響。

 

その中を1003人とはいわないまでも、

 

少女、娘、若い、中年、老年の年齢、

 

容貌、さまざまな体型の女性が

 

舞台にずらりと並ぶのはまさに壮観。

 

こんなにたくさんの<女>をものにしてきたのか、と

 

一瞬で観客に伝える。

 

 

墓場の場面もすっぽりと頭を覆ったフードと

 

マントが墓石や木々となって。

 

 

さらにドン・ジョバンニの「地獄落ち」は凄まじい。

 

白い紗幕(これが結界になって)、

 

そこにあくまで改心をしない

 

ドン・ジョバンニに鉄槌が下り、

 

地位も身分も権力も剥ぎとられ、

 

あがき、もがき、のたうつ。

 

白い泥濘が裸体を汚してゆく。

 

(カーテンコールでは顔も落としきれなかったのか、

 

タイトルロールがガウンとサンダル!?)

 

 

<漁色>という苦行をしているかのようにみえてきたドン・ジョバンニ。

 

<男性性>、<女性性>、

 

その狭間にある<情欲>。

 

このドン・ジョバンニにあるのは

 

<愛>でも<情>でもなく<肉体>、

 

その<数>でしかない。

 

カタログの歌にしても、

 

「明日には10数が増える」というのがじつに意味深い、かと。

 

 

もう手にできるものは

 

肉体の<数>のみという

 

こんな虚無の日日は

 

すでに煉獄なのかもしれない。

 

と、いったことなどなどを考えさせる公演でした。

 

 

ダルカンジェロのもう肉食系のドン・ジョバンニにとは

 

まったく対照的、いえ極北ではないか、と。

 

こんな密度の濃い、思索的な

 

「ドン・ジョバンニ」観たことがない!

 

 

それにしても、

 

モーツアルトの音楽は

 

かぎりなく美しく、

 

そして強靭。

 

 

 

 

 

舞台画像 新作オペラFLASH 2020/21[ザルツブルク音楽祭]ドン・ジョヴァンニ | 月刊音楽祭 (m-festival.biz)

 

 

 

【出演】   

ドン・ジョヴァンニ:ダヴィデ・ルチアーノ   

 

騎士長:ミカ・カレス 

  

ドンナ・アンナ:ナデジュダ・パブロワ  

 

ドン・オッターヴィオ:マイケル・スパイアーズ  

 

ドンナ・エルヴィーラ:フェデリカ・ロンバルディ   

 

レポレッロ:ヴィート・プリアンテ 

  

マゼット:ダーヴィト・シュテフェンス 

  

ツェルリーナ:アンナ・ルチア・リヒター 

 

  

管弦楽・合唱:ムジカエテルナ   

男声合唱:ザルツブルク・バッハ合唱団 

  

指揮:テオドール・クルレンツィス

 

演出・美術・衣装・照明:ロメオ・カステルッチ

 

 

 

収録:2021年8月4・7日    ザルツブルク祝祭大劇場(オーストリア)


(画像はザルツブルグ音楽祭からお借りしました)