藤沢周『世阿弥最後の花』河出書房新社 2021年刊
七十二歳にして罪なくして流謫となった
世阿弥の晩年を描くこの小説。
実子元雅を毒殺で亡くし、
さらに佐渡に遠流となった世阿弥が、
いかにして「まことの花」、「最後の花」を
希求してゆくか。
章はあるときは元雅が、
朔之進(のちに剃髪し了隠)が、
世阿弥が、語る。
そうして能について、
自身の芸能への深い探求のあわいに
佐渡の童、たつ丸がなんともかわいい。
演能の場面はまさに圧巻。
狭められた視野にうかぶ生と死、
生者と死者とのおのずからなる交感が
圧倒的な筆致で紡がれる。
おりおりに挟まれる和歌が
さらにその心情や心象を深めて。
たっぷりとその小説の織りなす
幽玄な世界にただよいました。
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世阿弥最後の花 :藤沢 周|河出書房新社 (kawade.co.jp)