細川俊夫作曲 オペラ「松風」
日本初演は2018年2月。
16日の初日公演を観ました。
その魂魄をゆさぶる、
深淵の極みの舞台。
3年前のブログをこちらに再掲いたします。
◆ついにオペラ「松風」上演!
日本初演を初日(16日)に観る。
能「松風」を基にして、
細川俊夫作曲による第三作めのオペラ。
イルカ・ザイフェルトによるドイツ語のテキスト。
2011年5月、
ベルギーのモネ劇場での世界初演をはじめ、
世界各地での50回以上の上演されている。
歌い手は四人、ダンサーと
ヴォーカルアンサンブル。
上演時間90分。
波の音、
風(ヴォーカルアンサンブルによる息の音)が吹き渡る。
松風(ソプラノ)イルゼ・エーレンス、
村雨(メゾソプラノ)シャルロッテ・ヘッレカント
の二人の姉妹は
黒い蜘蛛の巣のような糸が張り巡らされ、
そこを降りて登場する。
じつに印象的で、照明とあいまって、ゆめまぼろしのよう。
塩田千春とピア・マイヤー=シュリーヴァーによる美術。
能の橋掛かりが彼岸から此岸への<橋>であるように
このオペラでは黒い糸がその<橋>であるか。
宙吊りの斜めに傾いだ体勢で、
歌う無調音楽の二重唱の美しいこと。
松(行平・男)と風(女)の纏いつく狂乱(エクスタシー)、
その狂おしい想いが水の炎となって沸きあがる。
能管あるいは横笛のようなフルートが切り立つ。
その直後、ばらばらと落ちてくる巨大な松葉は
世界そのものの崩壊でもあるか。
霊は有漏路から無漏路へ。
夢幻の一夜の明けた浜には
波の音、
風があるばかり。
このオペラでは歌い手も話し、ダンサーのように動き、踊る。
能が語り、謡い、舞うように。
細川の精密にして、静寂をたたえた音楽、
サシャ・ヴァルツの演出・振付による身体表現。
松風と村雨はふたりでひとり。
陰、陽、男、女、生、死、
ひとの内奥にある、
見えないものを可視化した
美意識の凝縮されたかつてない舞台作品を観た。
◆オペラ「松風」
細川俊夫&サシャ・ヴァルツ
松風:イルゼ・エーレンス
村雨:シャルロッテ・ヘッレカント
旅の僧:グリゴリー・シュカルパ
須磨の浦人:萩原 潤
ダンス:サシャ・ヴァルツ&ゲスツ
ヴォーカル・アンサンブル:新国立劇場合唱団
指揮:デヴィッド・ロバート・コールマン
演出・振付:サシャ・ヴァルツ
管弦楽:東京交響楽団
美術:塩田千春、
ピア・マイヤー=シュリーヴァー
衣装:クリスティーネ・ビクレル
照明:マルティン・ハウク