「朔太郎は故郷を嫌うほど、愛していた」by 萩原朔美  萩原朔太郎「公園の椅子」 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朔太郎は故郷(前橋)を嫌うほど、愛していた」

朔太郎の孫で、館長の萩原朔美さんの言葉です(2020年9月2日)。

萩原朔太郎記念 前橋文学館のホームページに

「館長の言葉」として、アップされています。
   https://www.maebashibungakukan.jp/gm


その呪詛や怨みが切々と書かれた詩のひとつが、

「公園の椅子」(『純情小曲集』)です。


    公園の椅子
                         萩原朔太郎

人氣なき公園の椅子にもたれて

われの思ふことはけふもまた烈しきなり。

いかなれば故郷(こきやう)のひとのわれに辛(つら)く

かなしきすももの核(たね)を噛まむとするぞ。

遠き越後の山に雪の光りて

麥もまたひとの怒りにふるへをののくか。

われを嘲けりわらふ聲は野山にみち

苦しみの叫びは心臟を破裂せり。

かくばかり

つれなきものへの執着をされ。

ああ生れたる故郷の土(つち)を蹈み去れよ。

われは指にするどく研(と)げるナイフをもち

葉櫻のころ

さびしき椅子に「復讐」の文字を刻みたり。



 注:()はルビ


◆郷土望景詩の後に

  前橋公園

前橋公園は、早く室生犀星の詩によりて世に知らる。

利根川の河原に望みて、堤防に櫻を多く植ゑたり、

常には散策する人もなく、さびしき芝生の日だまりに、

紙屑など散らばり居るのみ。

所所に悲しげなるベンチを据ゑたり。

我れ故郷にある時、ふところ手して此所に來り、

いつも人氣なき椅子にもたれて、

鴉の如く坐り居るを常とせり。