「朔太郎は故郷(前橋)を嫌うほど、愛していた」
朔太郎の孫で、館長の萩原朔美さんの言葉です(2020年9月2日)。
萩原朔太郎記念 前橋文学館のホームページに
「館長の言葉」として、アップされています。
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その呪詛や怨みが切々と書かれた詩のひとつが、
「公園の椅子」(『純情小曲集』)です。
公園の椅子
萩原朔太郎
人氣なき公園の椅子にもたれて
われの思ふことはけふもまた烈しきなり。
いかなれば故郷(こきやう)のひとのわれに辛(つら)く
かなしきすももの核(たね)を噛まむとするぞ。
遠き越後の山に雪の光りて
麥もまたひとの怒りにふるへをののくか。
われを嘲けりわらふ聲は野山にみち
苦しみの叫びは心臟を破裂せり。
かくばかり
つれなきものへの執着をされ。
ああ生れたる故郷の土(つち)を蹈み去れよ。
われは指にするどく研(と)げるナイフをもち
葉櫻のころ
さびしき椅子に「復讐」の文字を刻みたり。
注:()はルビ
◆郷土望景詩の後に
前橋公園
前橋公園は、早く室生犀星の詩によりて世に知らる。
利根川の河原に望みて、堤防に櫻を多く植ゑたり、
常には散策する人もなく、さびしき芝生の日だまりに、
紙屑など散らばり居るのみ。
所所に悲しげなるベンチを据ゑたり。
我れ故郷にある時、ふところ手して此所に來り、
いつも人氣なき椅子にもたれて、
鴉の如く坐り居るを常とせり。