皆川博子『クロコダイル路地 Ⅰ』
舞台はフランス革命、
怒濤の歴史、
運命の歯車がギリギリと音を立て廻る。
皆川博子のその圧倒的な筆力、
膨大な人物たちがくっきりと姿をあらわす。
皆川作品、最初の一行がじつに印象的で、
もうそこから物語の世界へぐっと惹きつけられる。
「竪琴(たてごと)の全音階を奏(かな)でるような、秋であった。」
次の「一七八八年十月とはっきり覚えているのは、
フランスが狂瀾に陥る直前の年であったからだ。」
ここから始まっても小説として、むろん成立するが、
先の行があるのとないのでは
まったくニュアンスがかわってくる。
造本がうつくしく、端麗。
連載時に挿画を描いた伊豫田晃一の装画。
表紙から裏表紙までぐるっと一枚の画。
差し色の<赤>がとても効果的。
『クロコダイル路地 Ⅱ』では、
それは<青>にかわる。
装幀は皆川作品を多く手がける柳川貴代。
カバーをとると黒のクロコダイル模様でおおわれ、
皮装?とみまがうほどの質感。
見返しはそれが暗赤色のクロコダイル模様に。
ところどころの挿画、
表紙・裏表紙のクロコダイルも伊豫田作品。
◆『クロコダイル路地 Ⅰ』 (以下は内容紹介より)
quo fata trahunt, retrahuntque, sequamur.
運命が運び、連れ戻すところに、われわれは従おう。
1789年7月14日、民衆がバスティーユ監獄を襲撃。
パリで起きた争乱は、瞬く間にフランス全土へ広がった。
帯剣貴族の嫡男フランソワとその従者ピエール、
大ブルジョアのテンプル家嫡男ローラン、
港湾労働と日雇いで食いつなぐ平民のジャン=マリと妹コレット。
〈革命〉によって変転していくそれぞれの運命とは。
上巻は貿易都市ナントを舞台にしたフランス編。
小説の女王が描く壮大な物語と、
仕組まれた巧妙な仕掛けに耽溺せよ。
◆『クロコダイル路地 Ⅱ』
「法廷で裁かれるのは〈犯罪〉だ。神が裁くのは、〈罪〉だ」
革命は終わった。
登場人物たちは、フランスを脱出してイギリス・ロンドンへ。
ローラン、ピエール、コレットは、
革命期に負った「傷」への代償としての「復讐」を試みる。
「革命という名の下になされた不条理に、
私は何もなし得ない。ゆえに、
個が個になした犯罪の是非を糺す資格も、私は持たない。
私は、法がいうところの犯罪者になるつもりだ」
私は、殺人を犯す。それは罪なのか?
あの「バートンズ」も登場!
下巻は産業革命期のロンドンを舞台にしたイギリス編。