昨秋の二期会「蝶々夫人」、録画で観ました。
この「蝶々夫人」はザクセン州立歌劇場、デンマーク王立歌劇場、
サンフランシスコ歌劇場と二期会の共同制作。
宮本亜門演出の新しいプロダクション。
蝶々夫人:大村博美
スズキ:花房英里子
ケート:田崎美香
ピンカートン:小原啓楼
シャープレス:久保和範
牧田哲也(蝶々夫人の子、青年時代)
なんといっても宮本亜門による斬新な視点に驚きました。
蝶々さんの自害から30年後、
アメリカに渡っていた蝶々さんの子供が青年になり、
病んだピンカートンから手渡された手紙で、
その蝶々さんとピンカートンとの<劇>を知る。
そこで前奏曲があざやかに切って落とされる。
こんな印象的な始まりは見たこと、聴いたことはなかった。
母・蝶々夫人に寄り添い、その愛にこころを寄せ、
苦悩する、その青年「ドロール」を黙役の牧田哲也が
じつに巧みで、ひしひしと迫って、
「蝶々夫人」の悲劇がいっそう明確になってくるよう。
各幕の冒頭にこの黙劇をはさんで、オペラは進んでゆく。
この宮本「蝶々さん」では通常より
「母と子」のモティーフが重きをなしているようで、
花の二重唱でも子役が活躍して。
このオペラでのピンカートンは悪役・許せない男でなく、
蝶々さんを捨てた軽薄な自分を後悔して、
苦渋にみちて、死に瀕している、としている。
舞台・装置:ボリス・クドルチカ。
座敷や障子など日本家屋的なものは小さな部屋があるだけ。
黒と白の紗幕とこの部屋が精妙に移動し、各場を構成している。
プロジェクション・マッピングは花の二重唱などに使われて。
衣装:高田賢三とメイクは「日本的」。
第1幕の禿、舞子や親戚など<和>なのだけれど、
どこまでもケンゾーカラー。
ヤマドリが帝国海軍の軍装なのにはびっくり。
蝶々さんへの純情ぶりもかつてない。
蝶々さんは髪型、メイク、ドレスなどは
さらにケンゾー色が濃くて、で山口小夜子風。
蝶々夫人の大村博美、清楚でいて、
秘めた強い想いのこもった歌唱。
小原啓楼のピンカートン、軽薄で横柄な士官。
久保和範のシャープレス領事、あたたかい。
指揮者バッティストーニは、もうもう熱い。
蝶々夫人:大村博美
スズキ:花房英里子
ケート:田崎美香
ピンカートン:小原啓楼
シャープレス:久保和範 ほか
<指 揮>アンドレア・バッティストーニ
<演 出>宮本亞門
<衣 装>髙田賢三
<合 唱>二期会合唱団
<管弦楽>東京フィルハーモニー交響楽団
収録:2019年10月2・4日 東京文化会館 大ホール