宮本亜門演出 なんて斬新な切り口! 二期会「蝶々夫人」 @NHK-BS | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨秋の二期会「蝶々夫人」、録画で観ました。

この「蝶々夫人」はザクセン州立歌劇場、デンマーク王立歌劇場、

サンフランシスコ歌劇場と二期会の共同制作。

宮本亜門演出の新しいプロダクション。

蝶々夫人:大村博美
スズキ:花房英里子
ケート:田崎美香
ピンカートン:小原啓楼
シャープレス:久保和範
牧田哲也(蝶々夫人の子、青年時代)

なんといっても宮本亜門による斬新な視点に驚きました。

蝶々さんの自害から30年後、

アメリカに渡っていた蝶々さんの子供が青年になり、

病んだピンカートンから手渡された手紙で、

その蝶々さんとピンカートンとの<劇>を知る。

そこで前奏曲があざやかに切って落とされる。

こんな印象的な始まりは見たこと、聴いたことはなかった。

母・蝶々夫人に寄り添い、その愛にこころを寄せ、

苦悩する、その青年「ドロール」を黙役の牧田哲也が

じつに巧みで、ひしひしと迫って、

「蝶々夫人」の悲劇がいっそう明確になってくるよう。

各幕の冒頭にこの黙劇をはさんで、オペラは進んでゆく。


この宮本「蝶々さん」では通常より

「母と子」のモティーフが重きをなしているようで、

花の二重唱でも子役が活躍して。

このオペラでのピンカートンは悪役・許せない男でなく、

蝶々さんを捨てた軽薄な自分を後悔して、

苦渋にみちて、死に瀕している、としている。


舞台・装置:ボリス・クドルチカ。

座敷や障子など日本家屋的なものは小さな部屋があるだけ。

黒と白の紗幕とこの部屋が精妙に移動し、各場を構成している。

プロジェクション・マッピングは花の二重唱などに使われて。

衣装:高田賢三とメイクは「日本的」。

第1幕の禿、舞子や親戚など<和>なのだけれど、

どこまでもケンゾーカラー。

ヤマドリが帝国海軍の軍装なのにはびっくり。

蝶々さんへの純情ぶりもかつてない。

蝶々さんは髪型、メイク、ドレスなどは

さらにケンゾー色が濃くて、で山口小夜子風。

蝶々夫人の大村博美、清楚でいて、

秘めた強い想いのこもった歌唱。

小原啓楼のピンカートン、軽薄で横柄な士官。

久保和範のシャープレス領事、あたたかい。

指揮者バッティストーニは、もうもう熱い。




 

 

 



蝶々夫人:大村博美
スズキ:花房英里子
ケート:田崎美香
ピンカートン:小原啓楼
シャープレス:久保和範 ほか

<指 揮>アンドレア・バッティストーニ
<演 出>宮本亞門
<衣 装>髙田賢三
<合 唱>二期会合唱団
<管弦楽>東京フィルハーモニー交響楽団



収録:2019年10月2・4日 東京文化会館 大ホール