バイロイト音楽祭2019、ワーグナー「タンホイザー」
(2019年新演出、バイロイト祝祭劇場、8月25日)
録画で観ました。
すでにyoutubeで出ています!?
「タンホイザー」第一幕
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「タンホイザー」第二幕
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「タンホイザー」第三幕
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演出:トビアス・クラッツァー
指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ
タンホイザー:ステファン・グールド
エリーザベト:リーゼ・ダヴィドセン
ヴェーヌス:エレナ・ツィトコーワ
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ:マルクス・アイヒェ
領主ヘルマン:シュテファン・ミリング
ヴァルター:ダニエル・ベーレ
ビテロルフ:カイ・スティーファーマン
ハインリッヒ:ホルヘ・ロドリゲス=ノートン
ラインマル:ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
牧童:カタリーナ・コンラーディ
ル・ガトー・ショコラ:ル・ガトー・ショコラ
オスカル:マンニ・ラウデンバッハ
バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団
(合唱指揮:エベルハルト・フリードリッヒ)
トビアス・クラッツァーによる新演出の「タンホイザー」。
バイロイト音楽祭での読み替えの演出は恒例(?)でしょうか。
賛否両論は当然でしょうが、私には面白かった。
クラッツァーの意図は、映像に集約されているのでしょう。
ヴェーヌスベルクをヴェーヌスが率いるサーカスの一座に置き換え、
ワーグナーが掲げた理念、
「意志における自由」、
「行為における自由」、
「享楽における自由」を実践している、と。
第1幕、序曲が始まるとスクリーンに動画。
ロードムービーのような空撮で、お城から森、
街道を走るミニバス。
そこにはサーカスの一行。
ヴェーヌスが運転をし、
助手席にはピエロの格好のタンホイザー。
ドラッグ・クイーンのガトー・ショコラと、
太鼓叩きの小人のオスカル。
ガトー・ショコラとオスカルは黙役なのだけれど
芝居がうまく、存在感は抜群。
このヴェーヌスの一行は
ドライヴ・スルーでガソリンやハンバーガーを盗み、
さらに車の前に立ちはだかる警備員を轢き殺して逃走する。
タンホイザーはヴェーヌスとの言い争い、道路に飛び降りる。
倒れているタンホイザーに水を飲ませて介抱する
牧童ならぬ自転車に乗った女の子。
連れて行かれたのはバイロイト祝祭劇場。
この映像と舞台という構造が
二幕ではさらにあざやかに。
四角い白い額縁のなかで、
(これが結界にもなっているよう)
領主へルマンのもとの歌合戦が、ドラマが
クラシックな衣装、演出のもと進行するのですが、
舞台の上部ではモノクロの映像が映し出され、
出演直前の歌手や舞台裏の様子、
さらにはヴェーヌス一行が劇場正面にハシゴをかけ、
テラスから侵入し、ヴェーヌスは小姓役を軟禁して、
あろうことか舞台へ乱入。
まさに
「意志の自由、行動の自由、享楽の自由」
この侵入者に気づいて警察に通報するのは、
なんとあのバイロイト総裁のカタリーナ・ワーグナー!?
ヴェーヌス讃歌を歌ったタンホイザーは警官に逮捕される。
このドキュメンタリータッチの映像と舞台のタイミングなど、
じつによく出来ていること。
第三幕は廃車が置かれた荒廃した場所。
タイヤも取れたミニバスにオスカルひとり、
缶スープをあの太鼓であたためている。
彷徨ってきた エリーザベト。
そのエリーザベトを追ってきたヴォルフラム。
ふたりが交わり、その直後に歌われる
「夕星の歌」のなんと哀切なことか。
歌手たちはこの演出の下、
緻密な演技、歌唱も素晴らしい!
ヴェーヌスのエレナ・ツィトコーワ、
スリムなのにその声はじつに強靱。
第二幕では歌はないのですが、
とってもチャーミングで奔放。演技力、抜群です。
エリーザベトのリーゼ・ダヴィドセン 、
声は清楚、ドラマティック・リリコでじつに魅力的。
タイトルロールを歌ったステファン・グールド、
圧倒的な説得力をもって聴き手に迫ってくる。
そしてなんといってもバイロイト合唱の
厚みのある歌声は素晴らしい。
「タンホイザー」の新しい一ページが刻まれた公演では。