朔太郎の<五月>といえば、
極めつけはこれ。
「五月の貴公子」
詩集『月に吠える』に入っています。
五月の貴公子
若草の上をあるいてゐるとき、
わたしの靴は白い足あとをのこしてゆく、
ほそいすてつきの銀が草でみがかれ、
まるめてぬいだ手ぶくろが宙でおどつて居る、
ああすつぱりといつさいの憂愁をなげだして、
わたしは柔和の羊になりたい、
しつとりとした貴女(あなた)のくびに手をかけて、
あたらしいあやめおしろひのにほひをかいで居たい、
若くさの上をあるいてゐるとき、
わたしは五月の貴公子である。
詩集『月に吠える』