萩原朔太郎「見知らぬ犬」を朗読します♪ 明日25日「昼下がりのコンサート」 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萩原朔太郎『月に吠える』

1917年発行。

 

このとき朔太郎31歳。

 

 

 

 

 



その詩集の<月に吠える>犬、

あるいは犬の影、を書いた詩、

「見知らぬ犬」、「悲しい月夜」を朗読いたします。

 




   見知らぬ犬
                   萩原朔太郎

 

 


この見もしらぬ犬がわたしのあとをついてくる、

みすぼらしい、後足でびっこをひいてゐる不具(かたわ)の

犬のかげだ。



ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、

わたしのゆく道路の方角では、

長屋の屋根がべらべらと風にふかれてゐる、

道ばたの陰気な空地では、

ひからびた草の葉つぱがしなしなと

ほそくうごいて居る。


ああ、わたしはどこへ行くのか知らない、

おほきないきもののやうな月が、

ぼんやりと行手に浮んでゐる。


そうして背後(うしろ)のさびしい往来では、

犬のほそながい尻尾の先が

地べたの上をひきづつて居る。


ああ、どこまでも、どこまでも、

この見もしらぬ犬がわたしのあとをついてくる、


きたならしい地べたを這いまはつて、

わたしの背後(うしろ)で後足をひきづつている

病気の犬だ、

とほく、ながく、かなしげにおびえながら、

さびしい空の月に向つて遠白く吠える

ふしあわせの犬のかげだ。