子規(ほととぎす)こころに雨のふる夜かな
この句、谷口田女によるもの。
なんと1789年刊(フランス革命の年!?)の
『俳諧海山』に載っています。
同じような心理や情景をうたった
よく知られるヴェルレーヌ詩、
雨の巷(ちまた)に降る如く
われの心に涙ふる。 (堀口大學訳)
田女の句より百年後になります。
別所真紀子著『江戸おんな歳時紀』には
こんなにも多くの女性俳人、
女性の職業俳諧師が多く、
17世紀末から19世紀前半に活躍していること。
1700年には史上初の寺崎紫白『菊の道』が出版され、
その撰集も百にのぼるという。
「宮廷や大名などの支配階級でなく、
三百年前、一般庶民のおんなたちが、
その時代に多数創作に打ち込み
出版物を発行する文化は世界のどの国にもない」と
著者・別所真紀子さんは前書きに記す。
そんな俳人たちの句の数々がひかれている。
年齢も六歳の女の子から、老女まで、
妻から遊女から、さまざまな身分の女たち、
そして陸奥、江戸、京から九州まで、
なんて個性的でいきいきとしていたことか。
江戸の<おんな>は自由!
目からたくさんの鱗が落ちていった書。
◆別所真紀子
連句誌『解纜』を主宰する俳人・小説家。
『芭蕉にひらかれた俳諧の 女性史』
『言葉を手にした市井の女たち』など、
俳諧の面から女の生き方を追求した著書をもつ
女性史家で もある。