『月に吠える』の頃の朔太郎
<萩原朔太郎を朗読する>
無事に上演、終りました。
朔太郎『月に吠える』より
序の後半「犬が吠える」を読み、
次に 「遺伝」。この詩は『青猫』より。
この詩<犬が吠える>が大切なモティーフになっているます。
遺伝
人家は地面にへたばつて
おほきな蜘蛛のやうに眠つてゐる。
さびしいまつ暗な自然の中で
動物は恐れにふるへ
なにかの夢魔におびやかされ
かなしく靑ざめて吠えてゐます。
のをあある とをあある やわあ
もろこしの葉は風に吹かれて
さわさわと闇に鳴つている。
お聴き! しづかにして
道路の向ふて吠えてゐる
あれは犬の遠吠だよ。
のをあある とをあある やわあ
「犬は病んでゐるの? お母あさん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのです。」
遠くの空の微光の方から
ふるへる物象のかげの方から
犬はかれらの敵を眺めた
遺伝の 本能の ふるいふるい記憶のはてに
あわれな先祖のすがたをかんじた。
犬のこころは恐れに靑ざめ
夜陰の道路にながく吠える。
のをあある とをあある やわああ
「犬は病んでゐるの? お母あさん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのですよ。」
「竹」を二篇。
「蛙よ」とあの知られた最後の行
<帽子の下に顔がある>の
「蛙の死」を朗読いたしました。
蛙の死
蛙が殺された、
子供がまるくなつて手をあげた、
みんないつしよに、
かわゆらしい、
血だらけの手をあげた、
月がでた、
丘の上に人がたつてゐる。
帽子の下に顔がある。