彼岸花
懀い男の心臓を
針で突こうとした女、
それは何時(いつ)かのたわむれ。
昼寝のあとに、
ハツとして
けふも驚くわが疲れ。
懀い男の心臓を
針で突こうとした女――
もしや棄てたら、キツとまた。
どうせ、湿地(しめじ)の
彼岸花
蛇がからめば
身は細(ほそ)る。
赤い湿地の
彼岸花、
午後の三時の鐘が鳴る。
北原白秋 詩集『雪と花火』一九一六年刊
◆初版 詩集『雪と花火』早稲田大学図書館データベースの、
244ページに掲載されています。
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko03a/bunko03a_00283/bunko03a_00283.html