萩原朔太郎「風船乗りの夢」 @萩原朔太郎をうたう | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。


朔太郎 




萩原朔太郎「風船乗りの夢」、

この詩も1936年刊行の『定本 青猫』 に収められている。

1923年刊の『青猫』には入っておらず、

この『定本 青猫』を編集しなおし、加えられた。




「定本青猫」外・中函





  風船乘りの夢
                       

夏草のしげる叢(くさむら)から

ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ

籠には舊暦の暦をのせ

はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。

ばうばうとした虚無の中を

雲はさびしげにながれて行き

草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた

どこをめあてに翔けるのだらう!

さうして酒瓶の底は虚しくなり

ひどれの見る美麗な幻覺(まぼろし)も消えてしまつた

しだいに下界の陸地をはなれ

愁ひや雲やに吹きながされて

知覺もおよばぬ眞空圏内にまぎれ行かうよ

この瓦斯體もてふくらんだ氣球のやうに

ふしぎにさびしい宇宙のはてを

友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。








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