新前橋駅は上越線、両毛(りょうもう)線の
乗り入れているJRの駅。
「新前橋駅」詩碑
朔太郎の時代にはまさに野原の中でしょうか。
いまはロータリーの中に
「新前橋駅」の詩碑が設置されて。
新前橋駅
萩原朔太郎
野に新しき停車場は建てられたり
便所の扉(とびら)風にふかれ
ペンキの匂ひ草いきれの中に強しや。
烈々たる日かな
われこの停車場に来りて口の渇きにたへず
いづこに氷を喰(は)まむとして売る店を見ず
ばうばうたる麦の遠きに連なりながれたり。
いかなればわれの望めるものはあらざるか
憂愁の暦は酢え
心はげしき苦痛にたへずして旅に出でんとす。
ああこの古びたる鞄をさげてよろめけども
われは瘠犬のごとくして憫れむ人もあらじや。
いま日は構外の野景に高く
農夫らの鋤に蒲公英の茎は刈られ倒されたり。
われひとり寂しき歩廊(ほうむ)の上に立てば
ああはるかなる所よりして
かの海のごとく轟ろき 感情の軋(きし)りつつ来るを知れり。
『 純情小曲集』 (1925年刊)「郷土望景詩」より
()はルビ、表記ができないため()に。
◆郷土望景詩の後に
「新前橋駅」
朝、東京を出でて渋川に行く人は、
昼の十二時頃、新前橋の駅を過ぐべし。
畠の中に建ちて、そのシグナルも風に吹かれ、
荒寥たる田舎の小駅なり。
現在の新前橋駅