司修『絵本の魔法』 | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

絵本の魔法


数々の絵本の装幀に携わってきた
司修の著作『絵本の魔法』。
装画はその絵本が並ぶ。以下本の紹介より。


司修は1969年、
『宮沢賢治童話集』の絵をスクラッチボードで表現し、
絵本の世界に新風を巻き起こした。

エンデ『サーカス物語』など作家と作品に対する
深い理解に基づいた独自の表現によって、
数多くの魅力的な絵本を世に送り出してきた。
その過程で人間の弱さと純粋さを
心の目で捉え続けてきた著者自身が、
絵本から様々な影響を受け、画家としても変化してきたのだ。

最初に手がけた『みにくいあひるのこ』(65年)では、
同時期に子どもたちと直に接することで、
子どもの想像力の素晴らしさを実感し、
それが生命力にまで繋がっていることを目のあたりにする。

そして著者自身が、自由な想像力を得ていく。
生き方にまで多大な影響を受けたという宮沢賢治については、
賢治の生後五日目に起きた大地震を想起することから始まり、
農民としての生き方や、
死についての賢治の洞察へと展開する。

本書は、絵本を通して著者が辿りついた、
人生の真実の結晶である。

その扉は八つの鍵で開かれる。

魔法を解く8つの鍵
【幼年の鍵】みにくいあひるのこ

【妹の鍵】宮沢賢治童話集

【地の鍵】100万羽のハト

【風景の鍵】クリスチーナの世界

【島の鍵】おばあのものがたり

【夢の鍵】マグリット

【迷宮の鍵】エンデ

【魂の鍵】センダック


内容(「BOOK」データベースより)

独自の多彩な表現で絵本の世界を切り開き、
人間の弱さと純粋さを心の目で捉えつづけてきた芸術家が探る、
生と死の根源。



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『絵本の魔法』司修著 滲み出るブレない世界観

    評・中村隆夫(多摩美術大教授)

本書は「幼年の鍵」「妹(いも)の鍵」「地の鍵」
「風景の鍵」「島の鍵」「夢の鍵」「迷宮の鍵」「魂の鍵」
という8つの鍵で構成され、
宮澤賢治、向田邦子、大江健三郎、
アンドリュー・ワイエス、ミヒャエル・エンデ、
マグリット、モーリス・センダック、
民話などに言及している。


「妹の鍵」では、著者が大きな影響を受けた
宮澤賢治について書かれている。
賢治が生まれた明治29年の東北の大地震から始まり、
一昨年の東日本大震災、原発事故に話が及ぶ。

そして「あの太平洋戦争中、説得された『正義』や『勝利』に
酔わされた時代があった。

原発の『安全神話』が生んだ裏切りもまた、
また忘れられていくのだろうか」という
一文が添えられている。

「島の鍵」では、訪ねてきた侍にオバアが食べ物を所望され、
料理をつくる場面がある。
「オバアは麦と同じように、大豆をよくかんで、
皿にはきだし、ウンコをまぜ、
美味(おい)しそうなトウフをつくりました」。
料理法はこんな具合だ。
娘のカサネはこうやって美味しいものができるのか
と感心するのだが、
その様子をこっそり覗(のぞ)き見した侍は怒って、
オバアを殺してしまう。

自然農法、自然の力に従い生きてきた
人間の知恵と近代化・効率化とのせめぎ合い、
そして宮澤賢治に対する共感にも関連してくる話である。

賢治は、重要な存在である死んだ妹のことを作品に書いていない。
その理由に関する宗左近の文章が引用されている。
「とし子と共に語った、
あるいは少なくとも共に生きた世界、
それを、賢治は書いたのです。(中略)それが童話なのです」。

すなわち、ある世界観やビジョンについて
語るものが童話である。

随所に滲(にじ)み出る著者の死生観、夢、原発、
戦争、文明等に関するブレのない考えが共感を呼ぶ。

「童話」「絵本」とは分かりやすい語り口による、
ひとつの深い文学ジャンルである。

東日本大震災以後、
一過性の感傷主義的なヒューマニズムが横行した。
本書には深い思想に裏打ちされたビジョンが詰まっていて、
胸がすく思いがした。

     (白水社・2100円) 2013.9.22 新聞より


 
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司修『絵本の魔法』

[目次] 

Ⅰ 幼年の鍵──みにくいあひるのこ青い竹の家/井の頭公園のペリカン/ぶらんこ/孤独な噴水/星への旅/剥製の白鳥/ほしのひかったそのばんに 

妹の鍵──宮沢賢治童話集津波/安全神話/グスコーブドリの伝記/手紙/コバルトブルー/魔法の詩集/生きる喜び/女優/山猫と自身/死とは/花の蕾/結婚してもいいな/親子丼/注文の多い料理店/山の中の大正ロマン/更木のざしき童子/幼年の力/ももたろう/銀河鉄道の夜/宇宙人/奇跡のような事件/『雨ニモマケズ』/『雨ニモマケズ』の続き 

Ⅱ 地の鍵──100万羽のハトガラスの鯨/キリマンジャロの南/向田邦子さんの土地 風景の鍵──クリスチーナの世界リング/オルソンの家/秘密/魔女裁判/事件/遠景の家/小型のボート/悲しみと真実/醜さの美/海峡の見える丘/一つの疑問/クリスチーナの世界 島の鍵──おばあのものがたり一山を越ゆれば君がふる里のたそかれに辿る緑屋の坂/ケンムン・カワタロ/ケンムンの物語──幼年のための/モモトードー/恋人ノ心ヲヤスメルホドアレバ/妹の力/奄美に生きる日本古代文化/物語 ユングトの箱1/ユングトの箱2/ユングトの箱3/ユングトの箱4/ユングトの箱5/ユングトの箱6/ユングトの箱7/ユングトの箱8/幽霊/エレジー/古事記/オバアのマブリ1/オバアのマブリ2/オバアのマブリ3/オバアのマブリ4/オバアのマブリ5/オバアのマブリ6/オバアのマブリ7/糞尿譚/おばあのものがたり 

Ⅲ 夢の鍵──マグリット夢のエロス/迷宮への階段/《卵=アカシア》/もうひとつの物語の箱に入ってしまった①/《帽子=雪》/もうひとつの物語の箱に入ってしまった②/《コップ=嵐》/もうひとつの物語の箱に入ってしまった③/《ハイヒール=月》/《蠟燭=天井》/《金槌=砂漠》/イカロスの墜落/モナ・リザ 
迷宮の鍵──エンデペテン師のメルヘン/優雅な読書/登場人物紹介/影の王子/神秘的な力とは/迷宮/木の言葉/むかしむかしの物語/無/赤ずきんちゃん/ペンキを塗った三輪車/不完全を完全な芸術にするのは読者だ/カメと女性/黒姫童話館/エンデさんこんにちはさようなら 魂の鍵──センダック拝啓 木下順二様/かにむかし/方言の魅力/二〇〇万年前の人/拝啓 古義人様/アイダ/パパはうみへおでかけ/大きな足/黄色いレインコート/消えたヨット/魔笛/ゆりかご/遠回りしてゴブリン通りを/ズレ/浮遊/ヒッグス粒子/言葉の取り替えっこ



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プロフィール: 司修(つかさおさむ)画家・装幀家・作家。

1936年、群馬県前橋市生まれ。
69年『宮沢賢治童話集』(実業之日本社)の絵を
スクラッチボードで描き、
絵本による表現を切り開いた。
以後、多くの絵本を手がけ、エッチングやリトグラフ、
岩絵具やCGなど多様な手法により物語世界を表現しつづけている。
76年『金子光晴全集』(中央公論社)で
講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞、
78年『はなのゆびわ』(サンリード)で小学館絵画賞受賞。
93年『犬』で川端康成文学賞、
2007年『ブロンズの地中海』(集英社)で毎日芸術賞、
11年『本の魔法』(白水社)で大佛次郎賞受賞など作家としても活躍。

著書は他に『紅水仙』(講談社)、
『影について』(講談社文芸文庫)、
『戦争と美術と人間』(白水社)、
『蕪村へのタイムトンネル』(朝日新聞出版)、
『一〇〇万羽のハト』(偕成社)、『水墨 創世記』(岩波書店)、
『孫文の机』(白水社)など多数。