かねて耳驚かしたる光堂、開帳す。
光堂(ひかりだう)は藤原三代の棺(ひつぎ)を納め、
三尊の仏を安置(あんぢ)す。
七宝(しつぽう)散りうせて、
珠(たま)の扉(とびら)風に破れ、
金(こがね)の柱霜雪に朽ちて、
すでに頽廃(たいはい)空虚(くうきよ)の草むらとなるべきを、
四面あらたに囲みて、甍(いらか)をおほひて風雨をしのぐ。
五月雨の降り残してや光堂 芭蕉
<すべてを朽ち腐らす五月雨が、
ここだけはふらなかったのであろうか。
長い歳月を経過して、今なお燦然と
光輝をはなっている光堂であることよ>
新潮社古典集成「芭蕉文集」より
作曲は野澤美香。
気鋭の作曲家で、「芭蕉座」のメンバー。
この「おくのほそ道」のために書き下ろした曲。
◆ 野澤美香(作曲)
東京生まれ。国立音楽大学作曲学部卒業。
作曲を故・入野義朗に師事。
日本現代音楽協会新人賞入選。
ICC国際作曲コンクール第二位受賞。
シビテッラ・ラニエリ財団からのフェローシップでイタリア滞在。
02年日本音楽集団委嘱「霊長類研究所」、
03年ニューヨークでの「ミュージック・フロム・ジャパン」で
「メイド・オン・ザ・インサイド」を世界初演など
国内外で楽曲が演奏される。
映像作品、ダンスとのコラボレーション、
ゲーム音楽「虫姫さま」など活動は多岐に渡る。