何も知らず真っ白な状態で観たものから受けた衝撃。

私自身はどんな舞台でもネタバレNGなタイプなのですが(汗)おそらくそうでない人でもまっさらで観た方がきっといいだろうなと思われる作品に時々遭遇します。

NODA・MAP第24回公演「フェイクスピア」

野田秀樹さんの作品は何度か観ています。
彼独特の言葉遊び、台詞の洪水、俊敏に動く役者たちと、どんなものにも変化する身体能力抜群のアンサンブルが創る独特の世界。

わからない中にも言葉にならない感情が湧き上がって揺さぶられたり、一方でピンとこないときもあったり。多分、好みが分かれる作風でもあるのだろうなと思います。

今回は観劇を厳選している中でもあり、当初は予定していませんでした。
ところが、思わずスタンディングしたという芝居好きの友人の言葉にこれは見ておかなければならないような気になり・・色々なご縁が重なってギリギリ東京公演最終日に観劇することができました。
以下、ネタバレ、あらすじなしの感じたままです。

最初はマスクの中で涙が出るくらい笑っていたのに、最後はマスクの中も心の中もとめどなく涙があふれました(近年、こんなに劇場で泣いたことはなかったかもしれません)
フィクションを超えるノンフィクションの真実。
そのノンフィクションの世界に生きる私たちにとって、必要なフィクションの言葉、演劇。
客席で感じる役者から発する言葉は、フィクションだけれど真実でもあり、その言葉に心揺さぶられる場所、舞台、劇場。
その言葉の想いがとてつもなく強く強く心に響きました。

盟友中村勘三郎さんが旅立たれてから、野田さんの作風は少し変わったような気がします。
独特な作風の中にも、とてもストレートな強い思いが伝わってくるような。
あくまで個人的な印象ですが、自分のためだけの芝居ではなく、旅立った人たちへ届けるような思い、そして後に続く人たちに繋げ、伝えていく使命のようなものを感じるのです。
パンフレットのインタビューの中で、勘三郎さんだけでなく劇評家扇田昭彦さんの名前も出されていて、きっと扇田さんも劇場のどこかでご覧になっていたんだろうなと・・。

今回の作品は、これまでの野田さんのキャリアが積み重なったその線の上に、伝えていくという覚悟のような、原点のようなピュアなものがプラスされ、そして今だからこそ作れるもののような気がしました。

橋爪さん、白石さん、お二人の大ベテランがいることだけでも価値があり(お二人ともチャーミング)高橋一生さんも動きも含め、すごかった。
白石さんの最後の台詞が終わった瞬間、カテコを待たずに立ち上がった観客。
形式的なスタンディングではなく、すごいものを見てしまい、立たずにはいられないという自然発生的なスタンディングを久しぶりに目にし、自分も自然と立ち上がっていました。

何度も何度も繰り返されるカーテンコールが終わった後、いっさい場内アナウンスがなく、係員の方のメッセージボードだけで静かに退場する観客から会話がなくても伝わってくる感動。劇場にたちこめられた、観劇した人皆の余韻。

忘れらない貴重な演劇体験になりました。

東京公演は終わりましたが、これから大阪公演がまだ控えています。

無事の完走と、多くの方がこの舞台を体験できることを願っています。