~1963年9月から、日本でもブロードウェイ・ミュージカルの上演が始まった。第一作はもちろん「マイ・フェア・レディ」である。それは、目のくらむような<ミュージカルの時代>の始まりだった。~


ミュージカルのレビューでお馴染みの小藤田千栄子さんの著書「ミュージカルコレクション」の前書きにある文章です。

その初演からちょうど上演1000回目にあたる4/28夜「マイ・フェア・レディ」 を帝国劇場にて観賞することができました♪


帝国劇場に入るのは本当に久しぶり。やはりこのような大きな劇場にはクラシックなミュージカルがよく似合います。「マイ・フェア・レディ」はオードリ・ヘップバーン主演の映画をビデオで何度も見ていたので、歌曲もストーリーももちろんよく知っているのですが、舞台を観るのは初めてでした。


あまりに繰り返し映画を見ていたので、はじめはどうしてもヒギンズ教授のレックス・ハリソンやイライザのオードリー・ヘップバーンが頭をよぎってしまったのですが(^^ゞ だんだんと舞台に引き込まれていきました。

一番心に残ったのは、イライザがなかなか発音できなかった「スペインでは雨は主に広野に降る」という一文をいえるようになるシーン。

映画では「ローマの休日」のアン王女で美しい言葉を話していたオードリーのイメージが強く、どうしても上手く話せず悪戦苦闘しているシーンにリアリティを感じられなかったのですが、大地さんのキャラクターが下町で明るくたくましく生きているイライザとよく合っていたこともあり、下町言葉を克服してやっと話せるようになった喜びが体から伝わってきて思わず涙してしまいました。

その嬉しさからイライザが眠れず歌い踊る「踊りあかそう」のナンバー。色々なところで使われスタンダードとなっている有名な曲ですが、やはりこのお芝居の流れがあってこその感動で、このような感情の高まりがあってこそのミュージカルナンバーなんだなあとあらためて感じました。

後半のイライザの美しいドレス姿以上に心に残るシーンでした。


ヒギンズ教授の石井一孝さんは、自分の研究しか頭にないのにどこか憎めないキャラクターがよく出ていたと思います。映画のレックス・ハリソンは、皮肉屋でプライドが高いヒギンズ教授がぴったりだったので、最初石井さんの人のよいキャラクターがヒギンズ教授にはどう反映されるのだろうと気になっていたのですが、その人柄の良さで女心がわからない、ちょっと鈍感なところ(笑)が嫌味にならず醸し出されていて、ラストシーンに上手くつながっていたように感じました。


懐かしかったのはピアス夫人の春風ひとみさん。

春風さんは宝塚退団後、初めて舞台を拝見したのですが、凛とした立ち姿・その台詞に名演だった「ミー・アンド・マイガール」のマリア公爵夫人が蘇りました。男性版「マイ・フェア・レディ」ともいわれた「ミー・アンド・マイガール」でもマリアが紳士教育をする場面があり、同じような台詞もあったりと、懐かしさを感じました。いつの日か、春風さん演じるマリア公爵夫人をまた観てみたいです!この作品でも上流階級の家に仕える品格を保ちながら、イライザを影から見守る控えめな演技が絶妙でした。残念だったのは作品中で歌がワンフレーズしかなかったこと。そのワンフレーズが変わらず上手だっただけに何とももったいなく、もっと歌を聴くことのできる役柄を観てみたいと思いました。


途中やや間延びするように感じられるところもありましたが、その他のキャストの皆さんの頑張りやアンサンブルの美しいコーラスやダンスなどが作品を盛り上げていました。


階級の違い、言葉の違いの面白さを翻訳上演で伝えることは本当に難しいと思うのですが、やはりこのミュージカルから日本のブロードウェイミュージカルが始まっただけの重ねてきた歴史を感じる部分もあり、その灯を絶やさないでいってほしいなあと感じました。


終演後は、その上演1000回達成を祝してのご挨拶がありました。

これまでの「マイ・フェア・レディ」でイライザに恋するフレディを演じた川崎麻世さん、岡幸二郎さん、浦井健治さんの3人が大地真央さんに花束を贈呈し、この舞台への思いを。すでにミュージカル界ではベテラン?の川崎さん、岡さんのご両人も出演当時の思い出を懐かしく話されていました。浦井さんはそんなお2人を前に緊張気味に話されていましたが(笑)とてもまっすぐな舞台への情熱が感じられました。


そして46年前の初演「マイ・フェア・レディ」にフレディで出演され、今回はイライザの正体を見破ろうとするゾルダン・パーカーシーを演じている藤木孝さんがご挨拶を。

凛としたよく通る声で、初演の思い出と今舞台に立っている幸せを語り、これだけのキャリアがありながら、これからも精進していきたいと話す藤木さんの姿はこのミュージカルの歴史とあいまって本当に感動的でした。


最後はこの作品の上演中6割近くの舞台でイライザを演じてきた大地真央さんがご挨拶を。

「一口に1000回と言っても46年かけて築いてきたもので、その重みを実感しています」と感慨深く語ったあとに、「いいかげんにせんかい」と言われないように「もっとにせんかい(見せんかい)」といってもらえるよう頑張ります(笑)と場内の笑いを誘っていました。こういうオヤジギャグ(笑)をさらっと上手にいってのけるセンスはさすが(笑)このキャラクターがイライザの明るさとマッチしていたのも当たり役になった要素かもしれません。

美しく変身することがどうしてもクローズアップされてしまう作品ですが、今回イライザの心にある苦しさやヒギンズへの相反する気持などを感じることができたのも回数を重ねてきたからこそのものかもしれないと思いました。



たまたま取ったチケットがこの日だったので、当日劇場でチラシを見るまでそのような記念の日だとは全然知らなかったのですが、ミュージカルファンとしてその歴史的な瞬間に立ち会えたことは偶然とはいえ、とても感慨深く幸せでした。


46年前この作品に携わった方達の日本の観客にブロードウェイミュージカルを届けたいという情熱が、いつまでも消えることなく受け継がれていきますように・・。