NHKBSの「衛星映画劇場」は定期的に過去の名作を放送してくれるので、名前だけは知っているけれど観たことがない作品やもう一度観たかった作品に出会うことができる,映画ファンには大変ありがたい番組です映画

3/22に放送された「天井桟敷の人々」も名前は知っているけれど観たことがない映画のひとつだったので、さっそく録画し本日鑑賞しました♪


天井桟敷の人々(原題:LES ENFANTS DU PARADIS)

製作年:1945年 製作国:フランス 195分

監督:マルセル・カルネ 脚本・台詞: ジャック・プレヴェール
出演:アルレッティ ジャン=ルイ・バロー マリア・カザレス ピエール・ブラッスール


【あらすじ】 

第一部――1840年代のパリ、タンプル大通り(犯罪大通り)。パントマイム役者バティスト(ジャン=ルイ・バロー)は、裸に近い踊りで人気の女芸人ガランス(アルレッティ)に恋をする。犯罪詩人ラスネール(マルセル・エラン)や俳優ルメートル(ピエール・ブラッスール)も彼女に夢中。一方、バティストの属する一座の座長の娘ナタリー(マリア・カザレス)はバティストを愛していた。ラスネールと悶着のあったガランスもその一座に加わるが、彼女の前には新たな崇拝者モントレー伯(ルイ・サルー)が現れる…。第二部――それから5年後、バティストはナタリーと、ガランスは伯爵と結婚していた。しかし、ガランスを忘れられぬバティストはルメートルの手引きで彼女と再会を果たすのだったが…。


                                                         (Yahoo!映画より)

The Best of Times


何の予備知識もなく観たのですが、3時間15分があっという間でした!


オープニングは、パリのダンブル大通り(犯罪大通り)での芝居小屋の呼び込みから始まります。パントマイム役者の父から観客の前で笑いものにされていたバティストが、呼び込みを見ていたガランスに一目ぼれするシーンでのパントマイムが印象的で、そこから一気に映画にひきこまれていきました。

誰にも心を渡さない女芸人ガランス、そんな彼女を愛してしまう4人の男性(純粋な青年バティスト、悪事を働きながらも美学を持つ男ラスネール、饒舌で人生に楽天的な役者ルメール、上品な物腰ながら傲慢でどこか人を見下している伯爵モントレー)、それぞれのキャラクターがとても人間的で、彼らの中にどの人間もあわせ持っている、純粋さ・人の良さ・傲慢さ・憎しみ・哀しみがあり、4者4様の恋物語を通して、きれいごとだけでない「人生」や「生きること」が伝わってきました。

4人の男性に愛されながらも幸せになることができないガランスの孤独、ガランスを忘れられないバディストを愛し続けるナタリーの孤独、2人が対峙するシーンでは思うようにならない人の心の哀しさが胸に迫りました。


脚本・台詞のジャック・プレヴェールは詩人としても有名だということですが、全編を通して詩のような台詞が心に残ります。純情なバティストに世馴れたガランスが言う「恋なんて簡単よ」やルメールがガランスを口説く「恋するものにパリは狭い」などほんの一言の台詞にも心憎いのがあったり。主要なキャストだけでなくちょっとした役で出てくる人物の台詞も味わい深いものが沢山ありました。


芝居小屋の役者が主人公なので、劇場の裏側や劇中劇がふんだんに出てきてその点でも舞台が好きな私には興味深く見ることができました。特に2部で上演されるバティストのパントマイムの中での哀しい仕草・表情には道化役者の全てが表れているようで、思わず涙してしまいました。シェイクスピアに心酔しているルメールのオセロも見応えがあり、どちらも劇中劇なのがもったいないくらいの内容だったと思います。


圧巻はラスト近くのカーニバル。全編モノクロとはいえ、そのスケールの大きさに一体どれくらいの制作費がかかったんだろうと思ってしまったのですが、何と当時のお金で16億円と知ってビックリ目

この映画の背景は全く知らなかったのですが、撮影時の1943年パリはナチスの占領下だったので、非占領地域のニースにオープンセットを作って3年あまりをかけて撮影したとのこと。その背景を知って映画をふりかえるとそこかしこにパリへの愛情があり、生きるために伯爵に囲われたガランスの哀しさと心は自由であるという彼女の毅然としたまなざしにフランスの誇りを感じました。

しかし見終わるとそのスケールの大きさ以上に人生の余韻のようなものがいつまでも心に残るのもフランス映画ならではかなとも思います。


俳優陣はどの人もよかったですが、やはりジャン=ルイ・バローのパントマイムが素晴らしかったです!心の哀しさが透けて見えてくるようで、その表情は忘れられません。ガランスを演じたアルレッティ、ナタリーを演じたマリア・カザレス、2人とも眼に力がありました。「第三の男」のアリダ・ヴァリを見たときに感じたのと同じ意思を持った強いまなざしが印象的でした。


タイトルの「天井桟敷」とは劇場の中でも天井に一番近い高さの座席のこと。

舞台からは一番遠くでありながら、心から笑い役者を感じているその席の観客が実は一番幸せなのかもしれない。伯爵に囲われるようになったガラスが高価なボックス席から舞台を見ながら、「天井桟敷で笑っていたころが一番幸せだった」という台詞を聞いてそんなことを感じました。


私がこの映画を知ったのは昔読んだイラストレーター和田誠さんと映画評論家山田宏一さんの共著「たかが映画じゃないか」にあったお2人のプロフィール欄でした。「今までで最も繰り返し観た映画」という欄に山田さんが「天井桟敷の人々」と書かれていて(ちなみに和田さんは「ジョルスン物語」)子供心にどんな映画なんだろうと印象に残っていました。その頃に見ていてもきっとこの映画のよさがわからなかったかもしれませんが、大人になった今この名作を見ることができて本当によかったと思っています。


この映画を心に残してくれた山田宏一さんに感謝です♪