イルと毎日一緒にいる。
それは変わらない。あたしの日常。
毎日っていう日々を、あたしはずっとバイトで
過ごしている。
午前中は寝てるし、起きてテレビでも見たら
すぐに出発。
イルの待つ厨房へ。
天気はいいし、どこかへも出かけたい。
お気に入りの店にも服屋にも、本屋にもいけない。
ううん、行こうと思えばいける。
でもそんな気もないくらい、イルだけに会いたい。
外は晴天。
そんな日でも私達は中に閉じこもって仕込み。
外は雨。
イルに早く会いに行くために傘を差すわたし。
雨に塗れたズボンが乾かないうちに勤務開始。
そんなの気にならないくらい、夢中で。
身だしなみには気をつけるようになった。
約9時間以上連続で厨房にいるから、
目やにも出てくるし脂も浮いてくる。
汗もかくし、香水だって落ちてしまう。
初めてバイトにつけていったワックスだって無意味。
眉毛だって消えてしまった。
これが現実。
でもこれも私のステップアップだよ。
いつだってすっぴんだったけど、
イルも森君もいちおう?オシャレしてて、
あたしも、何か、まぁ流れに乗ってんだけど、
がんばらなきゃかも~とか思って。
いつまでも、めんどくさいじゃ、きれいになれないなって。
化粧は、さすがに、
もう脂がすごい出るから出来ないんだ。
あたしのポジションは揚げ場。
唐揚げとか、ポテトとか、天ぷらとか。
いつも背中が熱くて、汗をかく。
フライヤーと向き合うと額から汗が流れてくるし、
きっとメイクしてったら、マスカラはべとべとになるし、
ファンデだって30分で落ちてしまうわ。
だから精一杯のつもりで眉毛を書いたけど、
案の定、消えていた。
汗ってすごいな。
どんなクレンジングよりよく落ちる。
冬なのにね。
いま、寒いはずなのに。汗かくんだから。
イルはそんなあたしのこと、
どう思ってんだろう。
あたしはやっぱり化粧は出来ない。
だって化粧直しに行ってる時間、ないし。
それでパンダ目になって引かれるより、
すっぴんのままのほうが全然いいよ。
ホールなら、っていうか揚げ場じゃなければ、
サラダ場とかなら、何とかなるけどさ。
あぁぁ。
何か、厨房って、恋愛対象にならないのかも。
可愛いって言う点ではね。自信ないから。
相当じゃん。
だって化粧してなくて(っていうかしてもハゲて)、
でも可愛かったら、モテんだよ。
どうだろうな。
あたし、結構がんばってるんだけどな。
イルが困ってそうなときは話しかけたり、
自分がやらなくていいとこまで気にかけたり。
気を使ってるつもりなんだ。
何か、生まれもった気遣いじゃないんだけどね。
意識してやってるから、気づかないとこもあるし、
あんまり伝わってないかも。
あたしね、もう、何ていうか見た目は気にしなくなった。
何でだろう、落ちるとこまで落ちたからかな。
イルに「だって化粧もしてないし~」とか
言われたら、たぶんすごい気にしだすだろうな。
まぁ、しないし出来ないし何いわれてもしないけどね。
何か、とりあえずイルにすごく近い女の子はあたしなわけ。
距離もだし、知らないけど一番しゃべる異性は、
あたしだろうと思うし。
まぁそこはイルは意識してないだろうけども・・・。
だから、もう見た目で勝負とか、結構無理だと思うのよね。
何か、あたしが勤務入るときとか、あんまイル見ないもん。
興味ないんだろうなって感じ。
顔を見てこないから、髪の毛にワックスつけたって無駄だった。
んで、イルととりあえずいっぱい一緒にいるし、
顔じゃ通用しないなら、中身だろうと。
とりあえず付き合うのは中身だから、人間として。
一緒に仕事して、いい奴っていうか、そういう風に
思わせるには、中身を磨かないと!!と思って。
あたしはあたしのせいいっぱいでもダメなんだって思って。
精一杯でダメなら、もっと違う自分を、
新しい自分を、作って、出して、見せて、
がんばればいいんだよね。
やなとこは、分かってるなら、しまっておいて。
人間的に、やっぱり、好かれたい。
イルにもだけど、人にね。
好かれる人って分かるから、理想をかなえるんだ。
直井さんもそう。
あたしは直井さんの人柄、すごく好きだよ。
ああなりたい。
人をしあわせにする。
そんなひとになりたい。
あたしが焦ってちゃだめなんだ。
あたしが常に、人の事考えて、思いやりをもって、
やさしく、気遣って、ね。
わざとじゃ良くないんだけどね。
私の持ってるやさしさ、もう人にあげられるでしょう?
明日もイルと会う。
明後日はグランドオープン日なんだけど。
明日も忙しいかな。
あたし、明日も失敗するかな。
がんばろう。
イルに見てもらえるように、
ちゃんとした仕事を、明日もするぞ。
一生懸命仕事をすることを、あたしは19年間で
これが2度目になる。
1度目は前のバイト先に入った頃。
高校生で始めての仕事で、
店長がものすごく怖くって、がむしゃらに
がんばってたあの頃。
それからは実力より下の力で仕事してきた。
イルのためかもしれない。
恋愛のためかもしれない。
自我のため。わがまま。自己中かもしれない。
それでもあたしは仕事をがんばる。
お客様により早く料理を出せるように。
イル、あたしは今の関係がすごく幸せだよ。
あなたに彼女がいても、わたしに彼氏がいても、
あなたと一緒に笑っているわたしは、最高に満たされるわ。