そんな話をした後でもまたいつものよう。
くだらない話で笑いあってた。
店をあとにして彼女を駅まで送った。
彼女の髪を撫でて、別れを言った。
離れてすぐ振り向いて、彼女の後姿。
呼び止めて抱きしめたかったけど、できなかった。
翌朝の新幹線で神戸に戻って、そのまま単車で鳥取に帰った。
それ以来、今でも、あのときの彼女の顔が忘れられない。
思い出すたびに胸が締め付けられて、恋しくなる。
報われない、救われない恋はもうしないつもりだったけど、コントロールできるはずもねえよな。
おれは都会を去って田舎に戻ることに億劫だったけど、彼女がいなかったら結局どこにいても同じだとすら思う。
依存を越えて、まるで病気です。
そんな想いをかかえたまま、彼女の未練をふりきれないまま、
また新しい明日が始まります。
彼女は驚いた、 というか絶句していた。
しばらく「なんで?なんで?!」を連発した。
すごく、喜んでくれてた。
正直ここまで喜んでくれるとは想像できなかった。
渡した手が震えた。
おれが選んだ腕時計を巻いた彼女を見て、あまりにもいとおしく思えたおれは、言わずにはいられなかった。
「おれも学校入ったりするからすぐには無理だけど、いつかね、多分2年後くらいに、かめ子のことを彼女だって呼べれたらいいなっておもってる。」
見つめ合って、彼女は言った。
「バリボはかけがえのない人だから。彼女になったら別れがくるから。だからバリボとは一生友達でいたい。」
心が切なくなった。
僕等の関係は複雑だ。
こんな感動をくれる人と、なんでおれはそばにいられないんだろうって、なにをどうすればよかったんだろうって、わからなかった。
手を握る彼女の体温が温かかった。
その日は、おれの人生で一番切ない日だったかも。
東京駅について彼女が来るのを待つ間、どこでご飯食べようかとかしばらく散策した。
高いビルが立ち並んでいて、夜景の見えるような雰囲気のあるお店も多い。
程なくして、仕事帰りの彼女と合流した。
今働いている職場が割りとゆるいせいか、かわいい私服姿だった。
お好み焼きを食べに行こうって事で一致して、しばらく歩いていたがいっこうに見つからない。
しょうがないから他にしようってなると、どうせなら雰囲気のあるとこ行こうってことになって、憧れのまなざしで見ていた高層ビルにある夜景の見えるイタリアンの店に踏み入った。
まったくの別世界のように思われた。
なにせおれはジーパン姿のちょうカジュアル。
どう考えても場違い。
でも彼女もその雰囲気に喜んでくれてるようでよかった。
なによりおれはこの後、この店の雰囲気に助けられる。
黒人JAZZメンの演奏を聴きながら高級イタリアンを食す。
落ち着かない雰囲気にも、彼女と話してたら楽しめた。
しかしこう楽しく会話してたんじゃプレゼント渡すタイミングも難しくなる。
前にも言ったが、おれは彼女にプレゼントなんかしたことないし、高額な品にひかれやしいないかとびびってる。
そんな時、偶然にも話題が彼女の壊れた腕時計の話になった。
おれは妙な運の流れに思わず笑いがこぼれてしまった。
そして彼女に言った。
「わかってると思うけど、おれがやることはみんな衝動的で、今日来たことだって思いつきだから。
だから、ひかれたりするのも覚悟の上だから。」
なんの脈絡もないおれの台詞に「何?何?」といった感じの彼女に、
おれはテーブルの下から隠し持っていたプレゼントを取り出して置いた。
「はい、誕生日プレゼント」
前に誕生日プレゼントをあげに行こうかって計画してたんだけど、突然10月から鳥取で働くことが決まって、もうその話は終わりだと思っていた。
でも電話で話した9月23日、おれは直感した。
実行に移すべきだと。
そう決めた時点でもうプランはスタートした。
行くことを彼女に話すと当然驚いていたけど、もう乗り出した船だってなもんで。
25日、神戸での最後の仕事を終えて、その日はネカフェ泊。
翌26日、おれは朝から元町へ行った。
COACHの専門店に入りましたが、やはりこの雰囲気は慣れない。
男一人で入ってきたから店員のお姉さんはすぐにプレゼントだと察して親切にしてくれた。
腕時計を。
30分くらい悩んで厳選して、お姉さんに試着してもらったりマネキンにつけて遠くから見たりして、やっと選んだ一品。
彼女着てる服とか反芻して、イメージがピタッと当てはまった。
パールピンクの腕時計。
想像しただけでよだれが出そうだった。
プレゼント片手におれはそのまま新幹線(N700系)に乗り込んだ。
初めて新幹線に乗ったけど、こりゃ驚くほど速いね。
さっきまで神戸にいたのに、あっちゅうまに東京です。
そう、運命の東京駅です。
想いは閃光の如く。
9月某日、彼女から着信とメールが入っていた事に気づいた。
内容は、正月にみんなで温泉行こうってことになって、予定おしえてといったもの。
おれはその時まだ自分が鳥取に帰ってポリになることは伝えていない。
当然学校に入っていれば外泊も難しくなるからおれはどう答えていいか考えていた。
翌日、仕事が終わってなんとなく夜景の見えるところに行って、おれは彼女に電話をかけた。
鳥取に帰ることとか話した。
おれは、
「温泉いけるなら、夜這いに行くわ」
とか、
「かめ子の浴衣姿とか見たらおれ狼になっちゃうかも」
とか冗談で言ってたら、彼女は、
「バリボならいい」
って。
そのときおれは閃いた。
東京に行こう。



