彼女が、独りになったことを知った。

3年間付き合った彼に、振られたらしい。

ずっと、彼とうまくいっていないことは、僕も聞いていたけれど、まさか別れるなんて思っていなかったから、彼女に片想いの僕ですら、ショックを受けてしまった。

「仕方ないんだ。私たち、ずっとケンカばかりしてたの」

そう言って笑う彼女の携帯には、元カレからプレゼントされた、近くの神社の縁結びのお守りがぶら下がっていた。

(あれ、対になってるヤツなんだよな)

彼女の元カレが、そのお守りをまだ持っているかは分からない。

でも彼女は、少なくとも彼女は、まだ元カレとの縁が繋がっていると、信じているんだ。

「広幸くん、今度ふたりで遊びに行かない? たまには若い子と一緒もいいかなって」

無理しなくていいのにな。

そう思って、僕は「何言ってんの。今まで5つも年上のオジンと付き合ってたくせに。年下なんて興味ないって言ってたじゃん」と言ってやった。

3つも年下なんて弟みたいだって、ずっと言ってたじゃないか。

幼い頃から、姉弟みたいに育った僕ら。

親同士が仲が良かったから、小さい頃はお互いの家に泊まりに行ったりも、普通にしていた。

彼女が中学に上がった年、初めて僕らに隔たりが出来た。

クラブ活動で、毎日遅くなる彼女。

なかなか一緒に遊べないことで、苛立つ僕。

そして彼女の隣には、僕の知らない男の影。

悔しかった。

彼女が、僕には見せない顔で笑ってる。

幼心に初めて灯った、小さな恋火。

長かった僕の片想いも、ようやくゴールを迎えるってことなのか?

「広幸くん、やっぱり君は意地悪ね」

そう言って無理に笑う彼女に、僕は「そりゃ、ここまで待たされたらね」と、心の中で呟いた。




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好きな人ができた。
どうしてこんなに好きなのか分からない。
相手は、きっと私のことなんて知りはしない。
なのにどうして、いつかは気付いてくれるだなんて、思ってしまうんだろう。
たくさんの人たちに囲まれたあの人を、自分のものにしたいだなんて、願ってしまうんだろう。
私は、手紙を書いた。
大好きなあの人に。
何でも良かった。
誰に何を言われようと、私は彼を好きになってしまったのだから。
ただ、私に気付いてくれれば良い。
そう思った。


私は勝手に自分で決めた待ち合わせ場所に、急いで向かった。
彼が来てくれるなんて希望、少しもなかったけれど、もし来てくれたときのために、わずかでも早く、着いておきたかった。


一時間待った。


二時間待った。


三時間待って、公園の時計を見上げたとき、その向こうに彼がいた。
彼は軽く手を上げると、申し訳なさそうに微笑んだ。
「遅くなってごめん」
私はただ嬉しくて、零れる涙を拭った。
「どうして、来てくれたの?」
「オレはずっと、『手の冷たい女の子』が好きだから」
やっと思い出してくれたのだ。
幼い頃、ふたりで交わした約束を。
昔、彼と初めて出会ったスケートリンクで、ふたりで決めた合言葉。
『もしどちらかが相手を見つけたら、そっと合言葉を呟こう』
彼は私の手を取った。
「はは、やっぱり今も冷たいんだな。氷のせいじゃなかったんだ」
笑った彼は、耳元で呟いた。
「ずっと忘れたことはなかったよ。初めて手を握った女の子のこと、オレもずっと探してた」
いつの間にか、有名になってしまった彼。
そして、普通の女の子に戻ってしまった私。
私たちはまた、出会った頃のように手を繋いだ。
氷の上ではなく、今度は、あたたかい土の上で。





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目の前にトンネルがあったら、君は潜るだろうか?

灯りも民家もなく、静まり返ったところにあるそのトンネルの向こうには、一体何があるのか。

君だったら気になるだろうか?

僕だったら、逃げ出したい。

逃げ出したいけれど、逃げられなかった。

僕の道は、そのトンネルにしか繋がっていなかったから。


トンネルは、不気味だった。

この場所そのものが、気味悪かった。

誰もいない。

何もない。

風さえも吹かない。

ここにいるのは、トンネルと僕だけだ。

僕の息遣いと足音と、わずかな衣擦れの音と。

それだけが、辺りに木霊している。

懐中電灯の灯りを頼りに、トンネルの入り口に立つ。

生ぬるい空気が漂う。

トンネルの向こう側は、何も見えない。

真っ暗だ。

目を凝らした。

視界は何も変わらない。

僕は、ごくりと生唾を飲み込んだ。

「カツン」

足元にあった、小石が転がった。

その瞬間、どこからともなくやってきた、なんとも言えない期待が胸に広がる。

何だろう、これは。

そして、その倍くらいの大きさで、不安と希望が押し寄せた。

何だろう、この気持ちは。

トンネルの向こうには、きっと何かある。

そんな、予感。

僕はありったけの勇気を振り絞って、トンネルの中に足を踏み入れた。


「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」

最初に聞いたのは、荒い荒い息遣いと、どうやら僕のものらしい赤ん坊の泣き声と、やさしい女の人の声だった。

「かわいい。私の赤ちゃん」

そう言って僕の顔に触れた手は、とても熱くて大きくて、とてもとてもやわらかかった。






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君とふたりで、ひたすら歩いた。

どこまでも遠く。

沈んでゆく太陽が、いつの間にか、見えなくなった。

そうしていないと僕が消えてしまうとでも思っているのか、君は僕の手をしっかり握って、少し辛そうに微笑んだ。

その顔が愛しくて、僕は何度も君の手を離そうと思った。

こうして君を巻き添えにしてしまうのは、間違っているのだと、確信もした。

けれど、もう引き返せなかった。

僕も、君も、今まで腕の中にあった全てのものを、投げ出して来てしまったから。

振り返らないと覚悟して、逃げ出してしまったから。

 

「間違ってなんかいないよ」

 

君が僕の目を見て言ってくれた一言が、僕の中で木霊する。

そう、間違ってなんかいない。

僕たちがふたりでいるためには、こうするしかなかったんだ。

僕たちは、ひとつになることを選んだ。

ふたりの愛は本物なのだと、証明するために。

たとえそれが間違った方法だとしても、僕たちは、そうすることしか選べなかった。

 

そして、僕たちは、深い深い森の中で、深い深い眠りについた。

 

 

 

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思い切って
変わってしまおう
迷わずに
振り返らずに
前だけ向いて
変えてしまおう



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