何もかもがどうでも良くなり始めていた頃、アタシは廃れた街角でひとりの男性に出会った。
名前を「フウマ」と言った。
表記は分からない。
名前を訊くと「フウマ」と答えたから、そう呼んでいる。
フウマはアタシが大嫌いなアタシの名前を、「似合ってる」と言って嬉しそうに呼んだ。
フウマは今日も、当たり前のようにボロボロのアタシの部屋に帰って来る。
「ただいま、愛子」
大きな荷物を抱えたフウマは、それをアタシに投げてよこした。
「何、これ」
「客からもらったぬいぐるみ。そんなのいらないっての」
ガサガサと封を開けると、大きなくまのぬいぐるみが顔を出した。かわいい。けど、男のフウマには必要のないものだと思う。こんなものを男にプレゼントする女の気持ちが、アタシには分からない。
まだ夜も明けきらぬ午前5時、フウマは店から戻ってくる。高級なスーツを着て、お酒と香水のむせ返りそうな匂いをさせながら。
「ホストも大変だね」
言うとフウマは「まぁね」と笑ってアタシの横にゴロンと寝転んだ。これからは、ふたりで躯を寄せ合う時間だ。
フウマは、お店でもトップを争う人気ホストだった。そんな彼が、廃れた街でアタシを拾った。フウマは何を思ったのか、それまで住んでた高級マンションを引き払い、アタシの部屋に転がり込んだ。今日で半年。アタシは小汚い小さな部屋で、フウマに飼われながら生きている。
「フウマ」
アタシはぬいぐるみを投げ出して、フウマの頬にキスをした。綺麗な顔。でも、とても疲れてる。
唇が重なった。
「愛してるよ」
フウマが言った。
アタシは、答えなかった。
フウマは苦笑いをして、もう一度、アタシに深く口付けた。
お題配布元:中途半端な言葉
ランキングに参加中☆ 0574
名前を「フウマ」と言った。
表記は分からない。
名前を訊くと「フウマ」と答えたから、そう呼んでいる。
フウマはアタシが大嫌いなアタシの名前を、「似合ってる」と言って嬉しそうに呼んだ。
フウマは今日も、当たり前のようにボロボロのアタシの部屋に帰って来る。
「ただいま、愛子」
大きな荷物を抱えたフウマは、それをアタシに投げてよこした。
「何、これ」
「客からもらったぬいぐるみ。そんなのいらないっての」
ガサガサと封を開けると、大きなくまのぬいぐるみが顔を出した。かわいい。けど、男のフウマには必要のないものだと思う。こんなものを男にプレゼントする女の気持ちが、アタシには分からない。
まだ夜も明けきらぬ午前5時、フウマは店から戻ってくる。高級なスーツを着て、お酒と香水のむせ返りそうな匂いをさせながら。
「ホストも大変だね」
言うとフウマは「まぁね」と笑ってアタシの横にゴロンと寝転んだ。これからは、ふたりで躯を寄せ合う時間だ。
フウマは、お店でもトップを争う人気ホストだった。そんな彼が、廃れた街でアタシを拾った。フウマは何を思ったのか、それまで住んでた高級マンションを引き払い、アタシの部屋に転がり込んだ。今日で半年。アタシは小汚い小さな部屋で、フウマに飼われながら生きている。
「フウマ」
アタシはぬいぐるみを投げ出して、フウマの頬にキスをした。綺麗な顔。でも、とても疲れてる。
唇が重なった。
「愛してるよ」
フウマが言った。
アタシは、答えなかった。
フウマは苦笑いをして、もう一度、アタシに深く口付けた。
お題配布元:中途半端な言葉
ランキングに参加中☆ 0574