目の前にトンネルがあったら、君は潜るだろうか?
灯りも民家もなく、静まり返ったところにあるそのトンネルの向こうには、一体何があるのか。
君だったら気になるだろうか?
僕だったら、逃げ出したい。
逃げ出したいけれど、逃げられなかった。
僕の道は、そのトンネルにしか繋がっていなかったから。
トンネルは、不気味だった。
この場所そのものが、気味悪かった。
誰もいない。
何もない。
風さえも吹かない。
ここにいるのは、トンネルと僕だけだ。
僕の息遣いと足音と、わずかな衣擦れの音と。
それだけが、辺りに木霊している。
懐中電灯の灯りを頼りに、トンネルの入り口に立つ。
生ぬるい空気が漂う。
トンネルの向こう側は、何も見えない。
真っ暗だ。
目を凝らした。
視界は何も変わらない。
僕は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「カツン」
足元にあった、小石が転がった。
その瞬間、どこからともなくやってきた、なんとも言えない期待が胸に広がる。
何だろう、これは。
そして、その倍くらいの大きさで、不安と希望が押し寄せた。
何だろう、この気持ちは。
トンネルの向こうには、きっと何かある。
そんな、予感。
僕はありったけの勇気を振り絞って、トンネルの中に足を踏み入れた。
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」
最初に聞いたのは、荒い荒い息遣いと、どうやら僕のものらしい赤ん坊の泣き声と、やさしい女の人の声だった。
「かわいい。私の赤ちゃん」
そう言って僕の顔に触れた手は、とても熱くて大きくて、とてもとてもやわらかかった。
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