欧州では、インターネット上で過去の個人情報を消去する「忘れられる権利」が広がっています。
「忘れられる権利」とは、ネット上にあるプライバシー侵害などにつながる個人情報について削除を求める権利のことです。主に、個人の生命・身体に危害を及ぼす情報やリベンジポルノ(復讐=ふくしゅう=目的の画像投稿)などの被害を救済する狙いがあります。
一方で、忘れられる権利は、表現の自由や知る権利を制限しかねない面があります。加えて削除に応じる企業側の負担も重いです。
その点については、グーグルに政治家など公の人物は情報消去を要請できないなど一定の基準もあり、配慮されていますが、今後は「個人情報の保護と知る権利」の兼ね合いが重要になります。
そんな中、欧州連合(EU)の司法裁判所は2014年5月、プライバ シーを侵害する内容を米グーグルなどに検索エンジンから削除するよう要請する権利を認めました。
忘れられる権利は、新聞などでも既に取り入れられており、ネッ トが人類の生活の一部になった今、それがグーグルにも適用されたという形になります。
日本でもヤフーが検索情報の削除に応じる基準を発表しています。
(住所や電話番号といった個人が特定できる情報に加え、生命や身体に危険が及ぶ情報を対象)
ところが、ネットは世界規模であり、グーグル・フランスで消去しても意味がなく、すべてを対象にすべきであるとの考え方もあります。
そして、2015年6月12日、欧州だけでなくすべての地域において、忘れられる権利に基づく情報削除を行うようGoogleに求める正式指示を発行しました。
一方、Google幹部や社外専門家などで構成されるGoogleの諮問委員会は2015年2月、情報削除の対象をEU圏内にとどめるのは適正だとする見解をまとめた報告書を公開しています。
Googleがこれまで受け取った削除要請は25万件を超え、対象のURLは数百万件にのぼる。同社は、査定した削除要請のうち40%以上を承認し、リンクを削除しているといいます。
しかし、 どのような種類の情報(誹謗中傷、健康問題、電話番号や住所など)に対する削除要請を承認あるいは拒否しているのか、どのような割合で削除要請に応じているのかなどは未だ不鮮明だそうです。
米欧には匿名になった状態を元に戻すのは簡単だとする研究もあり、企業が多くの恩恵を受けられるビッグデータとして活用していく為にも、匿名化の方法の基準策定が重要になります。
この問題は、顧客との信頼関係を築く上でも大切です。
例えばスマートグリッドは家庭の電力消費を詳細に記録する装置。
これは、見方によっては『家に何人いるか、入浴をしているかが 分かってしまう』と不安に思う人もいます。
これをプライバシー保護の技術で不安を和らげれば、顧客は企業への信頼感を増すでしょう。信頼がなければ、顧客は他企業に移ってしまいます。
また『アップル』は、2015年9月の製品発表イベントで、既に米国で始まっている決済サービス「アップルペイ」の方針として「顧客データを集めない」ことを公言しています。
アップルのティム・クック最高経営責任者の様に
「我々のビジネスは顧客の情報の上に成り立っているのではない。顧客は我々の商品ではない」
という考え方もあります。
ネットは本来、人々がさまざまな意見を表明し、その英知を結集できる利器のはずだ。プライバシーを尊重しながら、いかにネットの力を最大限に引き出すか。試行錯誤をいとわず、社会全体で関心を持って知恵を絞るべきでしょう。
~補足~
欧州委は グーグルが世界シェアの約8割を握るスマートフォン向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」についても正式に調査を始めると発表しました。問題の長期化は避けられず、破竹の勢いで伸びてきたグーグルの転機になる可能性もあります。
最終的に違反が認定されれば、制裁金は最大で60億ユーロに達する可能性がある。
また是正命令が出れば、欧州における事業戦略は大幅な見直しを迫られます。
当局とのやりとりは膨大な時間と費用がかかるだけでなく、新サービスの開発や新規事業への参入などあらゆる経営判断の遅れにつながります。
加えて、欧州以外の独禁当局が動き出す可能性もある。
ちなみに、パソコン用OSで9割の世界シェアを握り、欧州委とも争ったマイクロソフトは、1998年に米司法省から独禁法違反で提訴されたことが、その後10年以上にわたる長期低迷の起点となりました。
米国では米連邦取引委員会(FTC)が11年にグーグルの検索サービスに関してEUと同様の調査を始めたが、13年1月に独禁法違反はなかったとして調査を終了しました。
「グーグルは最もよく使われる検索エンジンかもしれないが、情報へのアクセスの方法はほかにもたくさんある」
「アンドロイドの成功は端末メーカーにもア
プリ開発者にも消費者にも恩恵をもたらした」
グーグルの検索部門とアンドロイド部門を率いる幹部は、このように反論しています。