そんなメガバンクの現状と今後についてまとめます。
1.
金融規制
2008年のリーマン・ショックをきっかけに導入された金融機関に対する規制は、さらに厳格化される方向にあります。世界の銀行監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は金融危機を受け、銀行への自己資本規制を強化しました。
大手銀行が国際資本規制への対応を加速する。背景にあるのは「バーゼル3」と呼ばれる銀行の国際資本規制の強化。
「バーゼル3」と呼ばれる同規制は、銀行の様々なリスクを計測し、それに対して従来よりも多くの自己資本を積むよう求め、13年から各国で段階的に実施されています。金利上昇に伴って発生する損失を計算し対応を求める金利リスクに関する新規制案もその一つ。
2015年3月期時点では、資本金や優先株など中核的自己資本(Tier1)ベースの自己資本比率は6%必要でしたが、19年3月期には8.5%になる。グローバル展開する銀行には一段の上乗せが求められ、三井住友FGは9.5%以上必要になる見通し。
海外展開する大手銀行は、そんな資本規制の強化への対応が急がれています。
三井住友フィナンシャルグループは7月中に2000億円以上の新型債券を発行みずほフィナンシャルグループも同月中に1000億円 の起債を計画する
三菱UFJフィナンシャル・グループは3月に1000億円規模の債券を発行済
発行するのは償還期限のない「永久劣後債」という債券。主な買い手は生命保険会社などの国内機関投資家です。普通株などで算出される自己資本比率が 5.125%を下回った際に元本が削減されるが、同比率が上向けば元本も回復するのが特徴です。
永久劣後債は中核的自己資本に算入され、三井住友FGは今回の発行でTier1比率を0.35%程度押し上げる効果があると見込んでいます。
また、3メガ銀は15年3月期の国際部門の収益が全体の33%に上る。今後の海外での経営課題では
(1)ガバナンス体制の高度化
(2)与信管理の強化(3)現地 人材の確保・育成
を挙げています。企業への成長資金の提供に加え、金融とIT(情報技術)を融合させた「フィンテック」への対応なども注視すると指摘してい ます。
2.
金融とIT~フィンテック~
金融とIT(情報技術)を融合させる「フィンテック」が世界的に活発になってきました。先行する欧米ではネット上で貸し手と借り手を結びつける事業や、手数料
が格安の国際送金など新たなサービスを次々生んでいます。
昨年末に株式を公開した米レンディングクラブはフィンテック企業の代表例。お金を借りたい人と貸したい投資家をネットを介して結びつける事業で成功し、仲介した融資額は1兆円を超しました。借り手は銀行口座やクレジットカードの使用履歴といった信用情報を登録します。レンディングクラブは借り手を細かくランク付けして融資の上限や金利を決め、4日以内に融資が振り込まれるなど利便性が高いです。
コンサルティング大手アク
センチュアによると、2014年のフィンテック関連への総投資額は122億ドル(約1兆5千億円)で前年の3倍になり、そのうち9割を欧米が占めています。
出遅れ気味だった邦銀でも、みずほ銀行や三菱東京UFJ銀行がベンチャー企業との提携に動いています。
みずほは有力ベンチャーのマネーフォワード(東京・港)と提携し、企業向けの会計支援サービスを始めています。請求リストをもとに仮想の口座番号を割り当てた請求書を自動でつくり、どの企業から入金があったかまで確認する仕組みです。
また、みずほは世界中で53万社のベンチャー情報を持つNTTデータと組んで有望ベンチャーを発掘しています。三菱東京UFJ銀行は6月にフィンテックに特化したコンテストを開きました。
銀行はこれまで自社の中でサービスを完結させることが多かったですが、それでは変化に追いつけない。技術力を持つベンチャーと組む方向に変わりつつあります。
長い目で見れば、商業銀行が提供するサービスの大半はフィンテック企業が取って代わるとの見方もあり、異業種を巻き込んだサービス競争が激しくなっています。
一方で、インターネット専業銀行が取引の安全性を強化している。
ジャパンネット銀行は4月から送金時の認証方法を、使い切りの「ワンタイムパスワード」に統一しました。従来は固定のパスワードでも本人認証していましたが、銀行業界で情報を盗み取って悪用するケースが増えてきたことで、同行が専用のパスワード表示機器を無償提供し、60秒ごとに書き換わるパス ワードを顧客に入力してもらうシステムに変わりました。
同様に、三菱東京UFJ銀行は6月、16年度前半をメドに使い切りパスワードへの全面移行を発表しました。メガバンクでもネット取引は増えており、同様な対策が広がりそうです。
ネット銀行が相次いで高度なシステムを導入しているものの、不正送金の手口は年々巧妙になっており、銀行側の対策といたちごっこになっている面もあります。警察庁によると、14年の不正送金被害額は約29億1000万円で、13年に比べ倍増しました。日本年金機構の個人情報流出問題でサイバー攻撃に対する社会的な関心が高まる中で、銀行業界全体で対策が急がれそうです。
3. グローバル化
日中両国の関係改善を追い風にメガバンクが再び中国事業に力を入れ始めました。
邦銀はこれまで中国に進出する日系企業向けの取引を中心に事業展開を進めてきましたが、経済成長の減速で中国に工場を新設する動きなどが一服し戦略転換を迫られています。
そこで、三菱東京UFJ銀行は、日本企業の進出が少ない福建省福州市に支店を開設しました。福州市は中国政府が推進する欧州までを結ぶ新シルクロード(一帯一路)構想で海路の起点となり、インフラ整備に伴って中国企業との取引拡大が見込まれています。中国・台湾の両岸貿易拡大で潤う台湾企業との取引拡大も狙っています。
みずほ銀行や三井住友銀行は自由貿易試験区(特区)で中国企業との取引を増やしています。中国の株式市場などは不透明感が強まっていますが、各銀行は政府が投資や規制緩和を推進する分野に照準を絞る戦略に転換します。
日本政府が尖閣諸島を国有化した2012年9月以降は、日系企業の運転資金需要が急減しましたが、その後は徐々に回復しています。特に、14年11月の日中首脳会談を機にビジネス環境は改善に向かっています。
中国政府が改革の目玉に位置づける4つの自由貿易試験区(特区)にも邦銀の参加が目立っています。みずほ銀行は天津市の特区と進出企業の支援などを巡る業務協力の 覚書を締結。6月末には三井住友銀に続いて三菱UFJとともに上海の特区で口座を開設できる認可を取得した。日本では同時に人民元債を発行しており、調達 した人民元を特区内に進出した中国企業に回せるようになります。
一方で、欧州や中国などで市場不安が高まっており、外貨の調達難による経営リスクを低減させる取り組みが急務となっています。海外は貸出金の増加が先行し、預金が不足
しています。
外貨不足はメガ銀に共通する課題で、2008年の米リーマン危機時にドルの調達市場が干上がった際は日銀が外貨の供給措置に踏み切ったという過去があります。さらに、貸し出しに対応する預金の手厚い確保を求める国際的な金融規制の動きもあります。
そこで、三菱UFJフィナンシャル・グループは外貨の調達を拡大しています。今後3年間で外貨建ての預金を5兆円増やす計画。また、グローバル企業の資金管理業務を担う専門本部を新設し、資金管理システムの拡充に450億円を投じます。
(この分野は米シティや英HSBCが先行し、三菱
UFJの大口融資先でも外銀に任せる企業が多かった。「資金管理業務は市場規模が膨らむ見通しで、収益の拡大余地が大きい」(三菱東京UFJ銀行の石垣夢
作執行役員)という。)
金融市場でドルを調達するコストは年初から25%上昇し、ドルなど外貨を安定調達する必要性が一段と高まっています。
また、3メガバンクはブラジル市場の開拓を本格化させています。
三井住友銀行とみずほ銀行はそれぞれブラジルのパラナ州政府系機関と業務提携しました。
パラナ州は南米最大規模の経済圏であるサンパウロ州に隣
接し、農業のほか、自動車など工業も盛んです。両行は開発局と協力して日本企業に事業用地や法制度などの情報を提供し、進出を後押しします。工場や事業所の建設を促し、融資などの取引拡大につなげます。
三井住友銀は日本以外のアジア企業の進出支援でも開発局と協力しています。昨年夏に地場最大手のブラジル銀行と顧客企業の相互紹介などで提携し、今年1月にはサ
ンパウロ州政府系の投資誘致機関とも業務協力で合意。三菱東京UFJ銀やみずほ銀は欧州とブラジルなど大陸をまたぐ企業取引の支援に力を入れています。
また、中東などイスラ
ム圏の事業拡大で海外展開の多様化を急いでいます。
特に、メガバンクがイスラム教の教義に基づくイスラム金融の開拓に力を入れています。
イスラム金融とは、イスラム教の教義に基づく金融取引。イスラムの法体系「シャリア」では、利子の受け取りや豚肉やアルコール、賭博などに絡む事業での取引が禁じられています。その為、利子の代わりにリース契約など実物取引を複雑に組み入れることで売買契約を成立させるケースが多いです。
イスラム教徒の多い中東では政府系の大企業などによる契約が増えており、東南アジアでもマレーシアを中心にイスラム金融を活用した取引が広がっています。
サウジアラビアでは3メガ銀が初めて協調し、製油所向けに過去最大の事業融資に踏 み切ります。邦銀が組成・資金拠出するイスラム金融の融資案件では過去最大だ。3メガ銀が同じイスラム金融の融資案件で協調するのも初めてという。融資は2016年1月から3年6カ月間の建設期間中に実行し、その後20年間で回収する計画。
その他に、三菱東京UFJ銀行は近くアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ支店でイスラム金融の業務を始めています。金融庁が現地法人に加え、銀行本体の支店でイスラム金融を扱えるように監督指針を改正し、このほど現地当局からも認可を取得しました。
三井住友銀行はマレーシアやロンドンの現地法人に加えて、今後はドバイ支店やシンガポール支店でイスラム金融の取り扱いを検討しています。これは、取引先に近い現地で新規案件の発掘などが容易になる為です。
みずほ銀行もロンドン支店でイスラム金融を扱う方向。
メガバンクはこれまで東南アジアや米欧で海外向け融資に力を入れてきました。イスラム圏でも展開すれば、市場不安などリスクの分散につながります。
金融技術の向上も大規模案件の獲得につながっています。イスラム金融以外も含めた世界のプロジェクトファイナンスの扱い高は、2010年ごろまでBNPパリバなど欧州勢がトップだったが近年は邦銀が上位を占めるようになりました。イスラム金融はリース契約を絡ませた複雑な取引が多いですが、大型案件を獲得できる競争
力が高まってきました。