2019年7月に単行本化された宮部みゆき氏の短編集を読み終えました。

 

 

親子の救済、老人の覚醒、無差別殺傷事件の真相、別の人生の模索…淡く美しい希望が灯る。宮部みゆきの新境地、心震える作品集。 (「BOOK」データベースより) 

 

収録作品は8編で、以下のとおりです。

 

「母の法律」 虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」。でも、救いきれないものはある。 
「戦闘員」 孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。覚醒の時が来た。 
「わたしとワタシ」 45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」 
「さよならの儀式」 長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。 
「星に願いを」 妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい? 
「聖痕」 調査事務所を訪れた依頼人の話によれば----ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。 
「海神の裔」 明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。 
「保安官の明日」 パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか…… 

 

この作品集の刊行によせて著者は次のように語っています。

 

10年前、新しく始まるSFアンソロジー『NOVA』(大森望責任編集、河出文庫)に参加しませんか----と誘っていただいたとき、これまでのような「なんとなくSF」ではなく、「ちゃんとSF」を書こうと思いました。その積み重ねで出来上がったのが本書です。歳月のなかで私が変化したところと変化しないところが浮かび上がり、作家的血液検査の結果を見るようで、嬉しくもあり恐ろしくもある作品集になりました。

 

また「海神の裔」 は伊藤計測と円城塔の共作「屍者の帝国」の世界観を基にした作品だそうです。

 

すでに発表済みの作品ばかりというファンゆえの感想も多く聞きます。

 

これまでの時代物、現代物全てにおいて、著者は時代の問題点に鋭くメスを入れてきたわけですが、今回はSFという形をとりながら、世の中何だかよくわからないところに進んでいるという戸惑いを、現代社会へ投げかけるという作品集のように思いました。

 

同世代の読者ですが、この時代を見届ける責任を少し感じもしました。