ハンマーやスパナならまだしも、包丁なんか持ったことのない自分がレストラン・カフェの店長が務まるだろうか?
まずは隣町、観音寺で知らない人はいないであろう名店「リバプール」へ3カ月間奉公に出された。
当然である。全く経験がないのだから・・・。
このリバプール、観音寺で撮影された映画「青春デンデケ」の舞台にもなった老舗の喫茶店。
マスターは結婚式場で経験を積み、和洋中全てに精通しているので、メニューは200以上、地元で店を出すならまずはリバプールで修業しろと、、数々の料理人を育ててきた登竜門のような店なのである。
もちろん奉公なので給料はないが、雇い主のオーナーが給料を出してくれている。まだ何の利益ももたらしていないのに、高校時代の山小屋でのアルバイト以来、ずっと影から見ていてくれていたのだ。
裏切るわけにはいかない。どんな困難があろうとも。ここは這いつくばって腕を磨くしかない。
朝7:00の仕込みから店に入り、夕方5時までではあったが、延長してもらって閉店の10時まで働かせてもらった。
雇い主の敷地内にある納屋で寝泊りをし、隣町の観音寺まで、免停中の為、1時間弱自転車で通った。
納屋に帰っても、自腹で購入したキャベツの千切りを練習した。慣れない30cmの牛刀をメインで使う為、左手は無残に傷だらけで、その傷は今も残っている。
暇な時は率先して厨房を磨き上げた。
包丁を研ぐ時も集中しすぎてトランス状態に陥り、指も一緒に研いで骨にまで到達していた。
修行を終えるころ、マスターが初任給で購入した思い入れのある牛刀を僕に授けるという。
職人の命とも言える高価な牛刀だった。古いものだったがまだまだ使えるもので、
これまで多くの弟子が育っていったのに、なぜ僕に?
常連のお客さんはその行為を不思議がった。なんでお前やねん?
そして、常連さんにその包丁を錆びさせたらタダじゃおかんからな!
と、おどされる始末。
さらには、将来このリバプールを譲ってもいいと、言ってくれた。
さあ、どうする・・・俺。