2021/09/10
秋の気配漂う空は高く、美しい。蒸し暑さが苦手な私は、身体にまとわりつくようなじっとりとした湿気から開放される時が来るのを待ち侘びていた。この時期の雨は、秋の潤いを一緒に運んでくる。雨に洗われた朝の爽やかな空気を胸一杯に吸い込む。身体の芯から浄化されるようだ。まさに私が一番好きな季節である。仕事を済ませた後、清澄な空気と空の美しさに誘われるままひとり車を走らせる。行き先は高原地。別荘地を抜け、林の中を走り、その先には広々とした牧場が広がる。この日は幸運にも馬が放牧されていた。思わず車を停めて、カーディガンを羽織り、柵の外から馬を眺める。頬をなでる秋風に心が柔らぐ。馬や牛を見ると嬉しくなるのは何故だろう…考えてみると、馬や牛は人と密接な関わりを持ってきたという長い歴史がある。農耕であったり、力仕事であったり、食したり…、人々の命に関わる役割を果たし続けてくれた生き物だ。だからこそ出会うとなんとも言えない喜びになるような気がする。私は、静かにそこに佇みながらふと空を見上げた。そこには青空のキャンバスに、流れる雲が一面に広がっていた。目の前で出会った雲が何かを想像させる形をしているとこれまた驚きや喜びの感情が湧いてくるものだ。雲は自然のなせる造形美。山にかかる雲。その美しさに惹かれて そこを目指すと雲ではなく霧の中となる。離れたところから見る雲は、形として存在するが 中に行くと掴むことすらできない。一瞬たりとも同じ形状がないその姿、私は人の心に重ね合わせている自分に気がついた。私が雲に惹かれるその訳がわかりかけた気がした。