慢性腎臓病 | ヴァンケット動物病院のブログ

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高齢になってくると多い病気の一つとして、慢性腎臓病(CKD)が挙げられます。CKDとは3ヵ月以上持続する腎臓障害と定義されています。

猫では特に多くみられる病気です。10歳前後の猫の約10%、15歳前後の猫の約30%がCKDを発症します。


血液検査でBUNとクレアチニン(CRE)が高値を示した場合、腎臓機能の異常を疑いますが、ここには一つ落とし穴があります。血液中のBUNとCREが増加する段階では、既に腎機能の75%以上が障害されてしまっています。


血中CREの基準値は、犬で0.4~1.4、猫で0.8~1.8くらいです(測定する機器によって若干異なります)。IRISという研究グループの分類では、CKDを4つのステージに分類していますが、CREが犬で1.4~2.0、猫で1.6~2.8mg/dLの段階では既にStageⅡに分類されます。血液検査の結果のみでCKDを診断しようとすると、血中CREが正常なCKD StageⅠの症例を見逃すことになります。


この見逃しを避け、CKDを早期発見するためには、尿検査の実施が非常に重要です。特に尿比重を測定することで、StageⅠのCKDを発見できる確率が高まります。複数回の尿比重測定で、尿比重が継続的に低かった場合には、CKDを疑い精査をすることをオススメします。

ヒト用の尿比重計で尿比重を測定する場合、特に猫の尿では比重が正確に測れないと言われています。猫の尿比重を測定するためには、動物用尿比重計を使用するか、計算により補正する必要があります。


タンパク尿の有無も非常に重要な所見です。ただし通常の尿試験紙検査では、顕著なタンパク尿は検出できますが、微量のタンパク尿は検出できません。微量のタンパク尿を検出するためには、尿中微量アルブミン検出キットを使用するか、尿中タンパク/CRE比(UPC)の測定を外注する必要があります。


血圧測定も、CKDのサブステージ分類に使用されます。犬のCKDの9~93%、猫のCKDの19~65%で高血圧を伴うとの報告があります。高血圧を診断した場合は降圧療法を行います。


当院では、CKDが疑わしい場合、血液検査、尿検査、腎臓の超音波検査を行います。それらの検査でCKDが疑わしい所見があれば、UPC測定、尿培養、イオヘキソールクリアランス(腎機能測定)、血圧測定を行い、CKDの確定診断と病期の分類をして治療方針を決定します。CKDを発症する年齢の動物は、他の疾患(心臓疾患、甲状腺疾患など)を併発していることも多いため、併発疾患についても評価を行う必要があります。


CKDの最もやっかいな点は、進行性であるところです。治療目標は完治ではなく、維持になります。そのため、CKDと診断された場合は、継続的な治療が必要になります。


ウサギ、フェレット、ハムスター、ラットなどでも、同様にCKDを発症することがありますが、血圧測定が困難であったり、イオヘキソールクリアランスが行えないなど、犬猫ほどは研究が進んでいません。これらの動物種の場合は、低比重尿が持続することやタンパク尿などから推測して治療を行う場合が多いです。


尿の検体採取は、膀胱穿刺といって、注射針で膀胱から直接尿を抜く方法で行います。尿培養を行う場合には、カテーテル採尿や自然排尿では正確な結果がでません。また、カテーテル採尿よりも動物の苦痛が少なく、基本的に安全性の高い方法です。膀胱の圧迫排尿は、腎臓への尿の逆流が見られるため、基本的には行っていません。


腎臓疾患の獣医学は、毎年新しいデータが出てくるので、目が離せません。